2018年2月アメリカ発世界同時株安の意外な理由

2018年2月2日、米国株が急落した。その次の営業日となった2月5日には更に下落幅を拡大し、1日で4%以上も下がった。この流れは日本株にも波及し、以後日経平均も同じような下げとなった。

世界同時株安までの流れ

さて、投資家としてはこの状況を解釈しなければならない。株価下落の原因自体は明らかだが、何故このタイミング(2月2日)で下落が始まったのかはそれほど明らかではない。この記事ではその両方について原因を探っていきたいと思う。

先ず、世界の株式市場が置かれている状況については去年から一貫して説明している。アメリカの中央銀行に相当するFed(連邦準備制度)が利上げとバランスシート縮小という強力な金融引き締め政策を実行しており、特にバランスシート縮小は2008年以来の量的緩和によってFedが買い入れた債券の保有額を減らすものである。

つまり、バランスシート縮小は量的緩和の逆回しであり、量的引き締めと言うべき強力な金融引き締め政策である。量的緩和で株価が大きく上がったのだから、量的引き締めで株価が下がらなければ理屈に合わない。しかしトランプ政権の経済政策に目を奪われた金融市場では、米国株は一貫して上がり続けていた。

その一番大きな理由はトランプ政権の法人減税である。法人減税は株式会社の利益を押し上げるため、株価上昇の直接的な原因となる。株式市場は先ずそれを織り込んだわけである。

しかし、トランプ政権の税制改革は2017年末に議会を通った。つまり、税制改革の内容が確定した形で投資家の前に置かれているのであり、投資家はその内容すべてを考慮に入れながら自分の投資判断を決めている。つまり、税制改革は既に市場に織り込まれており、これ以上の買い材料が無くなってしまったことを意味する。「噂で買って事実で売れ」という格言の典型的な例ということになる。

何故2月だったのか?

しかし、今回の株安はこれだけでは説明することは出来ない。何故ならば、税制改革が昨年末に織り込まれてから2月の急落までの間に株価はかなり上がっているからである。

では、何故2月2日だったのか? 市場の短期的な動きを説明することはほとんど無意味だが、しかし筆者はある仮説を思いついたので、ここで共有しておきたい。株式市場の今後の動向を予想するためにも役立つはずである。

さて、思い出してほしいのは量的引き締めにおける株式市場の動向がどうなるかを予測した以下の記事である。

これはもう昨年7月の記事だが、ここでは金融引き締めについて以下のように書いている。

米国は金融引き締めを行なっている。市場はまだまともに取り合っていないが、これは2008年以来の量的緩和によって支え続けられてきた株式市場のトレンドを逆回しにする動きであり、その危険性についてはここでも数年にわたって警告してきた。

Fed(連邦準備制度)のイエレン議長の慎重な行動により、株式市場は何度もトレンド逆転の直前まで来ながら、それを回避してきた。しかし今回Fedは本気であり、利上げとバランスシート縮小という二つの強力な方法によって金融引き締めを進めようとしている。

そして重要なのは次の点である。

しかし、ここで一つ疑問が生じる。では、Fedが金融引き締めを強行せず、市場や経済が少しでも拒否反応を見せれば直ちに歩みを緩めるという姿勢で金融引き締めを行えば、金融市場はどうなるのか? それでも株価は暴落するのだろうか?

そして、この記事ではイエレン議長の慎重な市場との対話能力を評価し、イエレン議長が慎重にことを進める限り、量的緩和バブルの崩壊を回避出来る可能性はあると結論した。

しかし、それは学者としても著名で、バーナンキ前議長のやり方を受け継いだイエレン氏だからそう言える話であり、イエレン氏の任期終了後に議長職を継ぐことになったジェローム・パウエル氏にも当てはまる話ではない。ここでは何度も言っているが、パウエル氏はキャリア上マクロ経済にほとんど関わってこなかった経済の素人であり、市場の対話能力はおろか、経済を分析する基本的な能力にも欠けている。パウエル氏は政治観が与党共和党的だという理由でトランプ政権に選ばれた、いわば傀儡議長だからである。

それが2月2日の急落開始とどう繋がるのか? もうお気づきの読者もあると思うが、パウエル新議長の就任が2月3日だったのである。

結論

ここで世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏が金融引き締め相場について語ったコメントを思い出してもらいたい。

中央銀行が経済成長率とインフレ率を強すぎず弱すぎない状態に保つために最適なペースで金融引き締めを行う新たな局面が始まり、それは中央銀行が失敗して経済が次の不況を迎えるまで続く

そして中央銀行が失敗しないということは、イエレン前議長が舵取りをしている前提で市場が織り込んでいたことである。株式市場が下落しても、イエレン氏ならば上手く対応してしまうだろう。そういう考えが市場にあったから、イエレン氏が議長であった間は株式市場は大人しくしていたのである。

そして議長がパウエル氏に代わったタイミングで株価は急落した。市場は先ず自分から問いかけ、知識と経験に欠ける新議長の対応を待っているのである。「ミスター新議長、あなたは市場との対話が出来ますか?」ということである。

こう考えれば、今後の株式市場の動きがある程度見えてくるというものだろう。つまり、パウエル議長がどういうコメントを出すのかということに、今後の株価の動向がかかってくる。現状では米国株のチャートは次のようになっている。

筆者の予想は、素早い対応は不可能というものである。米国株はガントラック氏の予想通り、早々と年始からの上昇分を吐き出したが、年始からの上昇分を吐き出したくらいで中央銀行が慌てては、中央銀行の信認にかかわり、むしろ長期的には混乱が大きくなる。

つまり、米国株が更に下落をしない限り、パウエル氏はこれまでの金融引き締め路線を継続すると言わざるを得ないだろう。何しろ実体経済自体は絶好調で、ここで利上げを撤回しては株式市場の言い分を飲んだことになる。そうすれば、長期的にはより下落の大きい催促相場が始まることになる。

気に掛かることは、急な株安を受けて長期金利が一旦下がっていることである。

株安の原因はそもそも金利高なので、この流れが続けば株価は一時持ち直すかもしれないが、中期的にパウエル議長の助けが得られないことには変わりがない。パウエル議長の助けがなければ、金利は下がることが出来ないのである。

一方で、長期金利が下落(つまり長期国債の価格が上昇)する中でも、昨年末から空売りを主張しているジャンク債は株式市場同様に下落を続けている。

金融引き締め相場におけるトレードについては、可能なものを事前にすべて検討した。そして昨年末のタイミングでポジションを始める銘柄として、ジャンク債の空売り以上のものはなかった。

何度も言うように、ここでは市場の動きは事前に書いてある。しっかり読み込んだ読者にとって、少しでも参考になれば幸いである。