サマーズ氏: 9月の米国利下げで長期金利がむしろ上がる危険性

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、今月のFed(連邦準備制度)の利下げについて語っている。

9月のFOMC会合の利下げ

今月の17日のFOMC会合でFedは利下げを行なう予定となっている。金利先物市場の織り込みによれば、利下げを行なう確率自体は100%で、利下げ幅については次のような市場予想となっている。

  • 0.25%利下げ: 89.0%
  • 0.5%利下げ: 11.0%

だから政策金利が下がること自体には反対意見はほとんどない。しかし問題は、長期金利がどうなるかである。

去年9月から始まった連続利下げにおいては、政策金利が下がったにもかかわらず、長期金利は上がった。

厳密に言えば、利下げ開始までは長期金利は下落していたが、利下げ開始と同時に上昇に転じ、長期金利はそのまま上がっていった。以下は去年の長期金利の動向である。9月の利下げ開始を起点に上昇に転じているのが分かる。

そして、少なくともこれまでのところ、今年の長期金利の状況は去年に似ている。9月の利下げ開始ということも一致していれば、利下げに向けて長期金利が下がっているということも一致している。

以下は現在の長期金利のチャートである。

利下げ後の長期金利の推移予想

長期金利は政策金利よりも株価に影響を及ぼすため、世界中の投資家が利下げ開始後の長期金利の動向に注目している。

今年の長期金利は去年と同じような推移となるのか。利下げ後の長期金利の動向について、サマーズ氏は次のように言っている。

市場は既に利下げを織り込んでいる。だから予想通り利下げが行われたとして、それが長期金利に大きな影響を及ぼすのであれば驚きだ。

市場の投資家が注視しているのは9月にどうなるかよりも、その後どうなるかに関してFedがどう言うかだろう。

利下げは既に織り込まれている。むしろ、市場では上に書いた通り0.5%利下げの可能性さえ多少織り込まれているのだから、0.25%の利下げしかされないとなれば、今月の利下げに関しては市場予想よりタカ派の回答ということになる。

だがサマーズ氏によれば、今月の利下げそのものよりも重要なのは、Fedやパウエル議長がその後の利下げ方針について何を言うかである。

サマーズ氏は次のように続けている。

もしFedが大統領の言うことに寄り添い、金融緩和を他のことよりも優先する方向に向かうのであれば、そうした状況下では長期金利は上がり、住宅ローン金利もそれに従って上がるだろう。

それが1970年代に中央銀行が政治化された時に見られたパターンだ。

言うまでもないが、1970年代は過剰な金融緩和で世界的な物価高騰となった時代である。

結論

デフレの時代には、利下げで当然長期金利は下がった。インフレ懸念で利下げでむしろ長期金利は上がるなどということはなかった。

だが少なくとも去年の利下げ局面では長期金利は上がった。それは、今の相場はこれまでの相場と何かが違うことを意味している。そしてサマーズ氏は同じことがまた起こる可能性を指摘している。

債券の専門家であるジェフリー・ガンドラック氏も同じことを言っていた。ガンドラック氏は、利下げすれば長期金利の上昇がまた起こるのかと聞かれ、次のように答えていた。

逆に何故起こらないんだ? これはパラダイムシフトだ。

ガンドラック氏の言葉を借りれば、それは金利上昇の長期トレンドが始まっているからである。これまでは利下げをすれば長期金利も下がる、長期金利低下の長期トレンドだった。だがガンドラック氏によれば、今はもう違う。

何故そうなっているのか。米国債から人々が逃げ出しつつあるからである。少なくとも各国の中央銀行は逃げ出している。

何故逃げ出しているのか。詳しく知りたい人は、日本語版はないが、ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)を参照してほしい。何故ドルと米国債から資金が逃げ出しているのかが書いてある。


How Countries Go Broke