引き続き、アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏の、Bloombergによるインタビューである。
今回はアメリカの量的緩和再開の可能性について述べている部分を紹介したい。
利下げで長期金利上昇のリスク
アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は今月17日のFOMC会合で利下げを再開しようとしているが、前回の記事でサマーズ氏は、利下げによってインフレ懸念が再発し、政策金利は下がっても長期金利はむしろ上昇する危険性があると指摘していた。
この記事に書いたが、実際に去年9月の利下げ開始ではそうなった。
今回の記事では、もし今回も利下げで長期金利が上昇する状況になればどうなるかについてサマーズ氏が語っている部分を紹介する。
サマーズ氏は次のように述べている。
もし長期金利が上昇することになれば、大統領やその周辺がずっと批判してきた量的緩和を何らかの形で再開するという選択肢ももちろんある。
Fedか誰かが介入して大量の長期国債を買い支えるか、あるいは銀行や年金基金などに長期国債の購入を強制するかということだ。
債券にとって金利上昇は価格の下落を意味する。だから利下げで長期金利が上昇してしまうというのは、インフレ懸念で米国債が下落するということである。
そうなれば、政府が影響を及ぼせる誰かに米国債を買い支えさせるしかない。
米国債の下落リスク
ただでさえ、コロナ後の金利上昇で米国債の利払いはアメリカの財政赤字の半分にまで増加しており、国債の利払いを賄うための新規国債発行で米国債が市場に溢れかえり、買い手不足から米国債が下落するリスクが懸念されている。
だからトランプ政権がFedへの積極介入を始める前から、その対策については色々議論されていた。特に、今回サマーズ氏が言及している、銀行が国債の買い支えを政府から強要されるシナリオについては、ラッセル・ネイピア氏が何度も警告していた。
何故それが危険か。銀行は預金者の預金で国債を買うので、実質的に国債買い支えを強要されるのは預金者だからである。
単純にコロナ後の金利上昇だけでもそのリスクが高まっていたのが、サマーズ氏によればトランプ政権による金融緩和のやり過ぎによってそのシナリオが余計に近づく可能性があるというわけである。
結論
量的緩和が近づいている。長期的にはそのシナリオは、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が既に予想していた。
しかしサマーズ氏の警戒するように今月後半に利下げから長期金利上昇となれば、量的緩和は誰もが思っていたよりも早く来るかもしれない。そしてその結果は間違いなくドルの急落である。
サマーズ氏は次のように纏めている。
その道に一度入れば、アメリカの金融システムの健全さに非常に深刻なダメージを与え、広範な結果をもたらすことになるだろう。
ドルの価値下落を察知した金相場と銀相場は既に上がっている。
コロナ前に発表した前々著で現金給付を予想し、ウクライナ戦争の前年に出版した前著で戦争勃発を予想したダリオ氏が、最近出した新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で次に予想しているのがドルの暴落である。
英語版しか出ていないが、必読の本である。日本語版が出る頃には恐らくドル下落はもう始まっているだろう。