レイ・ダリオ氏、ドルがどのように基軸通貨ではなくなるかを語る

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、LinkedInのブログ記事で基軸通貨ドルの先行きについて語っている。

アメリカの財政赤字

ダリオ氏は、アメリカの財政赤字の問題を心配している。だが、ワシントンDCで与野党の政治家たちと議論した結果、ダリオ氏はトランプ政権が財政赤字の問題を解決する気はないと結論したようだ。

コロナ後の金利上昇で米国債の利払いはアメリカの財政赤字の半分にまで膨らんでおり、米国政府は米国債の利払いのために米国債を発行し続けざるを得ない。

だから米国債の発行額はこれから指数関数的に増加してゆくが、米国債の買い手の方は指数関数的には増加していかないだろう。

したがって米国債は買い手不足で下落は避けられず、中央銀行は米国債を買い支えるために量的緩和をせざるを得ないので、ドルは下落せざるを得ないというわけである。

通貨安政策

結局、どこの国でもそうだが、政府債務の問題は通貨が犠牲になることで解決される。ダリオ氏は、これからドルがアベノミクスと同じ結末をたどると予想している。

特定の銘柄に関する予想を公にすることの少ないダリオ氏にとって、ドルの下落をこれほど明確に予想していることは珍しいことである。しかし、ダリオ氏は今回のブログ記事で次のように注釈をつけている。

明確にしておきたいのだが、わたしがドルが近い将来に突然基軸通貨のステータスを失うと言っているわけではない。その可能性はゼロではないが。

わたしが言っているのは、ドルや他の通貨と、その通貨建ての債券が富の貯蔵手段として有効なものではなくなってゆく時代に入りつつあるということだ。

通貨安政策による副作用は主に2つある。まずは紙幣を持っている人が、その紙幣の実質的な価値を失うことだ。通貨安政策とは、政府が国民の預金を犠牲にして債務問題を解決することである。

だが、人々がその意図に気付けば気づくほど、紙幣や国債を保有する人が少なくなり、人々はゴールドなど他のものへとどんどん流出してゆく。

通貨安と国力

しかし、通貨安政策の副作用はそれだけではない。ダリオ氏は次のように述べている。

そのことがアメリカ経済と世界に与える影響は簡単に想像できる。どうなるかは明らかだからだ。

例えば日本で円安になったことで何が起こったか。

その国のGDPは当然その国の通貨で表されるので、通貨が下落するということは世界的に見てGDPが下落するということである。その結果、日本はGDPをドイツに抜かれ、世界3位の経済大国から転落したが、今年のGDPでは5位のインドに抜かれることが想定されている。

つまり、通貨安とは、ほぼそのままその国のGDPが縮小することを意味している。日本人こそが誰よりもよく知っているように、国とはこのようにして衰退してゆくのである。

結論

このように、ドルはこれから長期的に下落してゆくが、その下落は非常に長期的なトレンドとなるだろう。

そのことは日本人が一番よく知っている。日本は、アベノミクス開始の2013年から10年以上かけて日本円を当時のほぼ半分の価値にまで下落させ、自国のGDPを犠牲にしながら、外国人観光客に買い叩かれる「安い日本」を自ら作り上げてきたのである。

ダリオ氏は、アメリカがこれから同じ道を辿ると予想している。

しかし日本円ならまだしも、基軸通貨であるドルが同じ道を辿るということが信じられない人もいるだろう。だが歴史研究で有名なダリオ氏は、次のように言っている。

大英帝国のポンドやオランダ海上帝国のギルダーなどの歴史上の基軸通貨にも同じことが起こった。

ドルは昔から永遠に基軸通貨だったわけではないのだから、ドル以前に衰退した基軸通貨があったということは当たり前ではないか。

ダリオ氏は著書『世界秩序の変化に対処するための原則』において、過去に基軸通貨を持った大英帝国とオランダ海上帝国がどのように衰退していったかを詳しく解説している。

何故ダリオ氏はわざわざ過去の基軸通貨の事例を調べたのか? ドルの先行きを予想するためにその知識が必要だからである。


世界秩序の変化に対処するための原則