世界最大のヘッジファンドBridgewaterの創業者であるレイ・ダリオ氏が、LinkedInのブログ記事でFed(連邦準備制度)の利下げと金融市場の動向について語っているので紹介したい。
アメリカの利下げ開始
2025年の金融市場においてもっとも重要なのは、トランプ政権のFedに対する金融緩和圧力である。
トランプ大統領はインフレ率は2%台まで下がっているとして大幅な利下げを望んでいるが、Fedのパウエル議長はこれまでずっと利下げを中止したままであり、トランプ政権は来年5月に任期が終わるパウエル議長の後任を選定している。
パウエル議長は、今月のFOMC会合でようやく利下げを行う予定である。これについてダリオ氏はブログ読者の質問を受けており、インフレ懸念が消えない中でFedが利下げをした場合、金融市場はどうなるのかと聞かれて次のように答えている。
わたしが懸念しているのは、短期金利が下落することでドルの価値が特にゴールドに対して下落し、長期金利が上昇して、その結果長短金利差が拡大し、金融緩和にもかかわらず株価は比較的低いリターンに留まる可能性だ。
ドルの下落とゴールドの上昇
1つずつ解説しよう。まず金融市場が利下げを折り込めば、今後の政策金利に大きく影響される短期国債の金利は下がるだろう。
一方で、金利が下がるとドルを保有するインセンティブは少なくなるので、ドルは下落するだろう。だがダリオ氏はドル以外の通貨の下落リスクについても心配しているので、通貨全般が下がる一方で通貨の代わりと考えられているゴールドが上昇するというわけである。
ゴールドはそもそもドルからの資金逃避でここ2年ほど爆発的に上昇している。以下は金価格のチャートである。

だがトランプ政権による金融緩和がこれからだということを考えれば、ゴールドの上昇相場はまだ途中だろう。いつ終わるかについては以下の記事で解説している。
利下げで長期金利上昇
さて、利下げでドルが下落するところまでは良いだろう。だが今回のダリオ氏の発言で重要なのは、利下げで長期金利が上昇することを予想している点である。
普通、短期金利が下がれば長期金利も下落する。だが長期金利は短期金利よりも今後の実体経済の動向に左右されやすいので、短期金利が下がることでインフレ懸念が増大する場合、長期金利はむしろ上がってしまう。
以下の記事で解説したが、去年9月からの利下げではそれが理由で利下げ後に長期金利がむしろ上がったのである。
そして株価は短期金利よりも長期金利に影響されるために、今後長期金利が上昇すれば利下げで株価がむしろ下がるような状況になることも考えられる。
歴史上、長期金利が上昇する局面で米国株の長期パフォーマンスが著しく悪くなったことは、以下の記事で解説している。
結論
国債にとって金利上昇は価格下落を意味するので、それは長期国債から資金が流出するということである。長期国債が下落し、その結果株価も下落し、そしてドルも下落するとすれば、そのシナリオはアメリカにとって最悪のケースである。
ダリオ氏は次のように述べている。
市場がそういう反応をすれば、それは投資家が米国債から別の資産に逃げたがっているということを意味しているのだろう。その場合、Fedは難しい立場に置かれ、スタグフレーションのリスクは増加する。
ダリオ氏は恐らくこの9月にそれがすぐ起きるとは思っていないのだろうが、しかしアメリカが財政赤字を解決せず金融緩和を続ければ、長期的にはドルと米国債と米国株からの資金流出は避けられないと考えている。
それこそがダリオ氏が最近発表した新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で1冊まるまる使って予想しているアメリカの衰退シナリオなのである。日本語版はないが、英語が読める人には原著で読むことをお薦めしたい。