英総選挙でジョンソン首相の保守党が圧勝した理由

12月12日のイギリス総選挙ではEU離脱を主導するボリス・ジョンソン首相の率いる与党保守党が過半数を獲得し勝利した。ジェレミー・コービン氏率いる野党労働党は大きく議席を減らした。コービン氏はEU離脱をめぐる国民投票の再実施を求めていた。

この結果はここの読者にとっては想定通りのシナリオだが、大手メディアの報道を信じている人々にはやや意外な結果かもしれない。EU離脱は破滅的な結論であり、コービン氏が主張していた国民投票の再実施やスウィンソン氏の離脱中止などが「穏当」な意見だという印象操作があったからである。

しかしここでは何度も説明しているように、イギリス国民はEU離脱に関して一度たりとも迷ってなどいない。イギリス人の意見は2016年の国民投票の頃から何も変わっていないのである。

EU離脱の経緯

ここまでの経緯をもう一度説明しよう。まず2016年に当時のデイビッド・キャメロン首相の主導でEU離脱に関する国民投票が行われた。キャメロン氏が残留派を率いていた一方で、この時に離脱派を率いていたのが現在のジョンソン首相である。ジョンソン氏とキャメロン氏はオックスフォード大学に在籍した頃からの友人でありライバルでもあったが、国民投票ではジョンソン氏の離脱派が勝利しキャメロン氏は首相を辞任することになった。

ここで問題になったのがキャメロン氏の次の首相である。選挙は行われていないため引き続き保守党の党首が首相になることになっていたが、間接民主制とは民意が反映されないものなのである。あるいは残留派がここで諦めなかったと言うべきだろうか、自然な流れとしてはEU離脱を主導し民意を得たジョンソン氏離脱を主導する首相になるべきだったのだが、保守党内部の反発でジョンソン氏が蹴落とされたのである。

テリーザ・メイ政権

結果として首相の座についたのがEU残留派のテリーザ・メイ氏だった。この時点で話が噛み合わないのである。残留派が今後のEU離脱を率いることは出来ないからキャメロン氏は辞任したはずだったのだが、後釜に据えられたのもEU残留派だった。

要するに保守党内部でさえも残留派の方が権力が強く、国民投票の結果を弱めようとする向きが実権を握ったのである。この動向は有権者に人気のなかったヒラリー・クリントン氏が大統領選で民主党の大統領候補になった経緯に似ている。大統領選のいびつな構造については以下の記事で説明している。

こうして国民投票では残留を支持していたはずのメイ氏が離脱を主導するという奇妙な構図が生まれたが、当然上手く行かずに2017年の総選挙で保守党は単独過半数を失うことになる。

こうした結果を日本のメディアは「EU離脱の混乱」として報道していたはずである。しかし実際にはこれは国民投票をないがしろにしてEU離脱を骨抜きにしようとしたメイ氏への不信任投票であり、EU離脱に反対したものではなかったのである。

結局メイ氏は離脱合意を纏められずに2019年6月に辞任、そこでようやく保守党も残留派が離脱を率いるのは機能しないと理解したらしく、ジョンソン氏が首相となったのである。

首相となったジョンソン氏

これでようやく民意と首相の座が一致したわけだが、それだけで上手く行くわけでもなかった。何故ならば保守党はメイ政権において単独過半数を失っていたからである。また同時にジョンソン氏は民意に反してメイ氏を選出した保守党内部の残留派とも戦う必要があった。結局ジョンソン氏はメイ政権で財務相を務めたフィリップ・ハモンド氏らを保守党から追い出して国民投票の結果に抵抗する勢力に対抗したが、追い出した分更なる議席を失うこととなった。

この状況でジョンソン氏が長らく求めていたのが総選挙の実施だった。これを拒否していたのが野党労働党である。ジョンソン氏は総選挙を行えば離脱派の自分が勝つことが分かっていたが、同時にそれを認識していた労働党のコービン氏も必死にそれを避けようとしたわけである。しかし結局は総選挙以外に状況を前に進める方法が無いことから労働党も総選挙に合意、そして12月12日の総選挙に繋がったのである。

ジョンソン首相の勝利

そして選挙の結果はどうなったか? 残留派を追い出して純粋に離脱派となった保守党の圧勝である。ここまで読んだ読者には非常に自然な結果に思えるだろう。大手メディアだけを眺めている人々はこの結果を理解できないだろう。

大手メディアより先に手のひらを返したのが金融市場である。EU離脱に関しては金融市場では経済的に壊滅的な結果をもたらすということになっていたはずであり、EU離脱が決まってからイギリスの通貨ポンドは下落していた。

しかしここ最近で為替相場が手のひらを返し始めていた。EU離脱を主導するジョンソン首相の優勢が伝えられる度にポンドが上昇する状況になっていたのである。そして今回の総選挙で保守党の勝利が伝えられるとポンドはどうなったか? 以下はポンドドルのチャートである。

ポンドが大きく上昇している。EU離脱は壊滅的ではなかったのだろうか? しかし繰り返しになるが、相場や大手メディアの政治的見解に一貫性を求めるのが間違いなのである。彼らには意見などない。感情があるだけである。

これで12月の大イベントであるイギリスの総選挙を無事通過した。後は米中通商合意だけとなる。

どちらにしても、米中貿易戦争もイギリスEU離脱も経済的には大した影響を持たないイベントであり、マスコミや市場が過剰反応しているだけのことである。この辺りについては以下の記事で説明したので、そちらを参照してほしい。