原油相場、直前の買い推奨通り高騰

新型コロナウィルスの世界的流行で暴落した原油相場が引き続き面白いことになっている。アメリカとサウジとロシアの三つ巴のプロレスを尻目に原油価格は予想通り底値から上昇した。

反発を開始した原油相場

これまでの経緯だが、トランプ大統領が「サウジとロシアが減産を行う」と宣言して産油国の対話を促して以来、新型ウィルスによる需要後退で暴落していた原油相場は反発を始めている。

それに反応してサウジとロシアも交渉に前向きな姿勢を示し、原油相場の雰囲気は少し前の絶望的な悲観から様変わりしている。

原油については3月25日の記事で買いの推奨を始めている。当時の原油価格は24ドルだった。

年始の高値から半額以下になっているが、筆者はこれを買い場であると考えている。ファンダメンタルズの観点からは激安であり、タイミング的にも底が近いだろう。

長期投資家であれば今後数ヶ月の価格の上下を考えずに今からでも買えるだろうし、短期的な価格の上下を気にする投資家もそろそろ買い始めるべき時期だろう。

そしてその後1週間ほど原油とロシアの産油企業Rosneftの買い推奨を続けていた。急騰直前の記事が以下である。この時原油価格は20ドル前後で推移していた。

原油は買いである。そして忘れてはならないのは、この状況を支配しているのはプーチン大統領であり、その裏にはロシア最大の産油企業Rosneftがいるということである。

こうした状況で投資家が乗るべき勝馬は状況をコントロールしている主体である。だからRosneftはこの状況における買い筆頭なのである。原油相場のトレーダーにとって非常に面白い状況となってきた。

そして原油価格は次のようになった。タイミング的にもほぼ完璧だろう。原油の買いポジションは既に30%程度の利益が出ている。

2018年の世界同時株安の空売り、2016年の金価格の買いと同程度の精密さで成功したのでなかなか満足している。

原油相場の今後の動向

気になるのは今後の動向であり、それはトランプ大統領次第だろう。これまでの記事でも述べてきたが、原油暴落で一番窮地に陥っているのはアメリカのシェール産業である。シェールオイルとは従来の採掘方法では掘り出せない場所にある原油を掘り出せるようにする技術のことであり、その分サウジやロシアなどの伝統的な採掘よりもコストがかかる。

以下の記事で説明したようにシェール産業の損益分岐点は40ドル台であり、今の原油価格では完全に赤字なのである。

一方でサウジとロシアは20ドル台の原油価格でも何とか利益を出すことが出来る。

そこで窮地に陥ったアメリカのシェール産業のためにトランプ大統領はサウジとロシアに交渉を持ちかけた。交渉のためには相手に差し出すものが必要である。以前の記事でもトランプ氏がどういうカードを切ることが出来るか次第だと述べたが、そのトランプ氏が持ち出したカードがあまり良くない。彼は最近次のように発言した。

エネルギー産業で働く何万人もの労働者とその雇用を生み出すアメリカの優れた企業を守るために原油の輸入に対して関税をかけなければならないとすれば、出来ることを何でもすることになる。

つまりサウジとロシアが減産に合意しなければアメリカは輸入国として関税を掛けると脅しているのである。はっきり言えばこれは悪手である。中国との貿易交渉が長引いたように、関税は影響が出るまで何ヶ月あるいは1年以上も待たなければならず、そうしている内に借金漬けのシェール産業は全滅してしまうだろう。

比較的余裕のあるロシアとサウジ

ちなみにそんなトランプ大統領を尻目にロシアとサウジは原油価格下落の責任のなすりつけ合いを始めている。

サウジアラビアが責任はロシアにあるとする一方で、ロシアのプーチン大統領は「(需要減少に加え)原油価格下落のもう1つの理由はサウジアラビアが減産の取引を取り下げたことと、増産を決定したこと、そしてその上に原油を安売りする用意があると表明したことだ」と述べ、原油価格暴落の原因はサウジにあり、サウジはその責任を取るべきだと言っている。今後の減産協議で優位に事を運ぶための主張である。

しかし以下の記事で取り上げたように、実際にはサウジがOPEC内での減産合意を纏めてロシアに提案したものをロシアが蹴ったのである。サウジはロシアが市場シェアの維持を強行するならば自分もそうすると言ったまでのことである。

プーチン氏の主張はほぼ言いがかりである。しかしトランプ大統領が他の場で実践してきたように、交渉においては主張が不合理かどうかは関係がない。立場の強い者が勝つのである。

そしてこの状況で一番立場が弱いのはアメリカである。しかも産油企業が集まっているテキサスはトランプ氏にとって非常に重要な票田であり、この交渉には彼の再選がかかっていると言える。

ロシアとサウジはこのまま取引が纏まらなければ一番困るのはトランプ大統領であることを見抜いており、これみよがしに互いに喧嘩を始めているのである。関税のブラフは効いていない。

筆者のように原油とロシアの産油企業Rosneftに投資している投資家はこの交渉をゆっくりと眺めておけば良い。交渉が纏まって原油価格が上がるならばそれでも良し、交渉が難航して原油価格が長らく低迷し、米国シェール産業が完全に破綻することで供給が激減してから原油価格が上がるならばそれも良しということである。

投資家にとってどちらに転んでも勝てるという状況は非常に心地が良い。プーチン氏もそう思っていることだろう。