ジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを創業したことで有名なジム・ロジャーズ氏が、ジミー・コナー氏によるインタビューでシルバーについて語っている。
1970年代のインフレ相場
1970年代は、オイルショックを含む世界的な物価高騰の時代である。コロナ後にインフレになってから、インフレ相場の解説のためにここでは何度もこの時代の解説をしてきた。
ニクソンショックに始まる金融緩和がインフレを引き起こして以来、金融市場で買われた資産がゴールドとシルバーである。当時、貴金属の価格が数十倍になったことは以下の記事で説明している。
だがこれはバブルだった。インフレを避けるためというだけの理由では、価格が数十倍になった理由が説明できないからである。物価は結局10年で3倍になったが、貴金属の価格は上記のようにそれよりもよほど上がっている。
インフレ相場になると貴金属はバブルになる。その理由は、インフレを避けるため人々は紙幣から別のものに乗り換えようとするが、ゴールドもシルバーも量がかなり限られているからである。受け皿が小さいので、バブルになるしかない。
シルバーのバブル
このようにして、1970年代には紙幣から逃げるために貴金属を買い漁った一般の人々も居れば、インフレと貴金属の関係を察知して投機に走った人々も居た。
そして後者の代表格がハント兄弟である。
ロジャーズ氏は次のように言っている。
ハント兄弟を覚えているか? ハント兄弟は、テキサスの原油王でかつて世界的な富豪として知られたH・L・ハント氏の息子たちだ。
ハント兄弟は、1970年代の銀相場のバブルで一躍時の人となった投資家である。ハント兄弟は父親から相続した財産を使い、当時世界の銀の総量のうち、政府が保有する以外のすべての銀の3分の1を一時買い占めたと言われている。
ロジャーズ氏は次のように続けている。
彼らはいつまでも銀の買い付けを止めなかった。彼らの資金は膨大で、レバレッジも莫大だった。だからいつまでもシルバーを買い続けることが出来た。
そうして銀価格は数十倍に上がった。1980年、物価高騰も酷かったが、貴金属の上昇はそれ以上に酷かった。
銀価格の高騰で商売ができなくなった宝石商のTiffany’sは、New York Timesに広告を出し、ハント兄弟を次のように批判した。
誰であれ、何十億ドルものシルバーを買い占め、銀価格を釣り上げて他の人が銀製品のために人為的な高値を払わなければならなくなるなど許されることではない。
銀相場バブルの崩壊
そうして結局、世論を敵に回したハント兄弟は、先物取引所から制裁を受けることになる。ロジャーズ氏は次のように続けている。
だがそれでシカゴの取引所が証拠金のルールを変え、ハント兄弟は証拠金を維持することができなくなった。
ハント兄弟は先物市場を利用してシルバーを買っていた。先物市場はレバレッジを利用でき、シルバーを買ってもその金額の一部を証拠金として預けるだけで、そのシルバーが買えてしまう。
だからハント兄弟は元々莫大な元手の何倍もの金額のシルバーを買い込むことが出来たのである。
だが結局世論によってこれが問題視され、先物取引所は証拠金の金額を引き上げる。
ハント兄弟は自分の資産以上の金額のシルバーを買っていたため、証拠金の引き上げによってポジションが維持できなくなり、ハント兄弟がポジションを解消せざるを得なくなることが明らかになると、銀相場は急激に暴落していった。
この1980年3月27日の銀相場の暴落のことを銀の木曜日と呼んでいる。ブラックマンデーならぬシルバーサーズデーというわけである。
ロジャーズ氏は次のように続けている。
そして銀相場は完全に崩壊し、酷い下げ相場となった。もうかなり昔の話だ。それから銀価格は1回を除いてその高値に戻ったことはない。
銀相場のバブル
さて、現代に話を戻そう。この話の論点は、インフレで人々が紙幣から貴金属へ資金を逃避させるとき、量が限られるゴールドやシルバーはバブルにならざるを得ないということである。
前にも述べたが、ドル建ての債券などが103兆ドルある一方で、ゴールドは世界全体でも23兆ドル、シルバーは2.1兆ドルしかない。ユーロや円なども含めて、紙幣や債券を持っている人が貴金属に雪崩れ込めば、ゴールドやシルバーのような小さな市場は理屈を超えたバブルにならざるを得ないのである。
また、以下の記事では同じ理屈でビットコインもここから更に上がると予想しているジェイムズ・ターク氏の意見を紹介している。
ロジャーズ氏も次のように述べている。
わたしはシルバーを保有している。わたしの考えでは銀価格はまたその高値に行く。
ちなみにロジャーズ氏は世界最初のヘッジファンドであるクォンタム・ファンドで貴金属などコモディティ市場のリサーチを担当していた、いわばグローバルマクロ戦略におけるコモディティ取引の創始者である。
古い本ではあるのだが、ロジャーズ氏がコモディティ取引の基本について解説した『商品の時代』という本がある。
貴金属を取引する上でも知っておくべき基本が書いてあるので、興味がある人は読んでおくのも良いだろう。