レイ・ダリオ氏: 債務を抱えたアメリカがドルを下落させるのは当然の帰結だ

世界最大のヘッジファンドであるBridgewaterの創業者レイ・ダリオ氏が、LinkedInのブログにおいてアメリカの債務問題やドルの先行きについて語っている。

歴史は韻を踏む

アメリカは巨額の債務を抱えており、しかもコロナ後の金利上昇で莫大な米国債には高い利払いが生じ、それがアメリカの財政赤字の半分にも及ぶようになっている。

それは防衛費も圧迫しており、だから財務長官のスコット・ベッセント氏は、アメリカの債務問題はアメリカの覇権の問題だと言っているわけである。

アメリカの債務はどうなってゆくのか。金利が低かった時には政府債務など何の問題もないということがまことしやかに囁かれていたが、今では国債の利払いが現実にアメリカの財政赤字をかなり圧迫している。

ダリオ氏は、アメリカの債務問題について次のように述べている。

わたしは歴史は厳密には繰り返さないが韻を踏むという考えに同意する。

政府債務は歴史上どのように解決されたか

ダリオ氏はなぜ歴史の話をしているのか。世界屈指のヘッジファンドマネージャーであるダリオ氏は、金融の歴史の研究で有名である。

ダリオ氏は次のように言っている。

今の世界経済と同じ状況は、わたしが研究した歴史上の50個の事例で既に起こったものだから、そういう状況で政府と中央銀行がどうしてきたかは分かる。

ダリオ氏は著書『世界秩序の変化に対処するための原則』において、アメリカ以前に覇権国家だった大英帝国やオランダ海上帝国などの国がインフレと債務過多で衰退していった様子を解説している。

ダリオ氏がなぜそんなことを研究したかと言えば、それがアメリカがこれからどうなるかを予想する上で参考になるからである。

アメリカの行く末

これまでは、アメリカは覇権国家だからどれだけ借金をしてもドルは下落しないということが言われてきた。だが、大英帝国やオランダ海上帝国がインフレと債務過多で通過下落を引き起こして衰退していったのに、なぜアメリカだけがそれを逃れられると考えられるのか?

ダリオ氏は、アメリカも同じ運命から逃げられないと予想している。ダリオ氏は次のように続けている。

政府債務と政府支出の急増は続く可能性が高いと考えている。アメリカの有権者は増税も年金削減も受け入れないだろうし、職を失いたくない政治家たちは自分を支持してもらわないといけない有権者たちに財政規律を押し付けようとはしないだろうからだ。

すべて理にかなったことだ。巨額の債務を抱えた国のリーダー、今の場合はトランプ大統領だが、彼が中央銀行のコントロールを握り、実質金利を下げ海外の債権者たちに米国債を売らず、むしろアメリカに投資するように圧力をかけているのはそういう理由だ。

この状況下では、どう考えても投資家はドルや米国債か逃避すべきだ。だからダリオ氏は次のように言っている。

実質金利を下げるような金融政策が行われ、通貨の価値は下落して、価値の薄まった紙幣によって政府の債務は返済される。

この見方が金融市場におけるわたしの賭けの原動力となっている。

ダリオ氏は、ダリオ氏にしては珍しく、ドルの下落予想をはばからず公言している。

ドルからゴールドへ

結局、アメリカの債務問題を解決するためにはドルを犠牲にするしかなく、米国政府の大量の借金は大量に印刷されたドル紙幣で返済されるしかないのである。

だが、円もユーロも状況は大して変わらないだろう。

だから、投資家はドルを捨ててゴールドに逃避しているのである。ダリオ氏は次のように言っている。

この理由から、他国の中央銀行や投資家たちは主要な資産としてドルや米国債を保有することからゴールドを保有することに移行している。

それが金価格を押し上げている。

金価格の先行きについては、フォン・グライアーツ氏の記事を参考にしてもらうのが良いだろう。

だが、それよりも重要なのは覇権国家が通常どのように沈んでゆくのかについての歴史的知識である。

ダリオ氏の著書『世界秩序の変化に対処するための原則』を未読の人は、そちらも参考にしてもらいたい。


世界秩序の変化に対処するための原則