タカ派の連銀総裁2人が在職中の株取引問題で辞任 金融政策は緩和寄りへ

米国時間9月27日、ボストン連銀総裁のエリック・ローゼングレン氏とダラス連銀総裁のロバート・カプラン氏が辞任を表明した。ローゼングレン氏は肝臓の健康問題のためと主張しているが、両氏は在職中の株取引問題で非難されており、直接的な理由はそのためだろう。

投資家にとって重要なのは、この連銀総裁らが2人とも早期テーパリング(量的緩和縮小)を支持するタカ派であるということである。

在職中の株取引問題

両氏は最近の開示で、Fed(連邦準備制度)が大規模な金融緩和を行なっていた昨年の間に株式をアクティブに取引していたことが明らかになり、少し前から非難を浴びていた。

カプラン氏はApple、Amazon.com、Googleなどのハイテク株を、ローゼングレン氏はモーゲージ債を保有するREITを取引していた。前者のハイテク株はFedの低金利の恩恵を受け、後者のモーゲージ債に至ってはFedが量的緩和政策で大量に購入している資産そのものである。

カプラン氏は元々Goldman Sachsの副会長であり、ローゼングレン氏もFedが買い入れる銘柄を買っていることから完全に確信的だろう。例えば日銀ではこうした取引は出来ないはずだが、アメリカではそういう規則が緩いらしい。

ローゼングレン氏は今週中、カプラン氏は10月8日に辞任するという。次回のFOMC会合は11月なので、両氏ともその前に退任することになる。

タカ派感が薄れるFed

さて、そうなれば問題となるのはFedからタカ派の連銀総裁2人が消えるということである。

これまでも報じているが、カプラン氏はセントルイス連銀総裁のブラード氏とともにFed内でもっともタカ派の委員として知られており、しかも弱い雇用統計を受けてブラード氏が9月のテーパリング発表支持を撤回した後も9月のテーパリング発表を主張していたタカ派の急先鋒である。

また、ローゼングレン氏も「雇用統計が強ければ」という条件付きで9月のテーパリング発表を支持していたタカ派の1人である。

パウエル議長は元々テーパリングに乗り気ではなかった。2018年に自分の金融引き締めが世界同時株安を引き起こして以来、彼は金融引き締めをやりたくないのである。当時の様子はリアルタイムに伝えていたから、覚えている読者も多いだろう。

しかし上がりゆく物価を懸念した連銀総裁たちに押し上げられる形で年内のテーパリング開始を認めた経緯がある。

だがタカ派の連銀総裁2人が抜けることで、Fed内のハト派が盛り返す可能性がある。しかも懸念しているインフレ率は現在減速中である。

そしてそこに中国恒大集団の不動産危機がのしかかっている。恒大集団が実際に倒産し、保有する莫大な不動産を投げ売りして中国の不動産市場を崩壊させ、中国の景気後退が世界経済に影響を及ぼすまでには1年程度の時間がかかるだろうが、現状これらの要素すべてが当面のデフレ相場を示唆している。

だからアメリカの金利には下落圧力がかかるだろう。現在はFedが利上げを示唆したことで短期的な金利上昇が起きているが、それほど長く続くことは出来ないはずである。

アメリカで3回行われた現金給付の打ち止め、恒大集団の問題、そしてタカ派連銀総裁の辞任という低金利へのお膳立てが整ったわけである。しかしそれは最終的には止まらない本物のインフレへの助走となる。来年の中間選挙のためにバイデン氏が財政緩和を行う辺りがデフレからインフレへの転換点だろう。