サマーズ氏: アメリカは利上げ不十分でインフレ悪化へ

著名投資家以外でほとんど唯一インフレを正しく予想したマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで2022年の利上げとインフレについて語っている。

利上げは十分か?

Fed(連邦準備制度)は12月のFOMC会合でテーパリング(量的緩和縮小)の加速を決定するとともに2022年内に3回の利上げを示唆した。

原因は明らかにパウエル議長が一時的だと主張し続けていたインフレが一時的ではなかったからであり、株価を下落させかねない利上げによって物価上昇を抑えることを余儀なくされているのである。

インフレを黙殺していた状況から考えればかなりのタカ派転換なのだが、かねてからインフレの危険性を警告していたサマーズ氏は次のようにコメントした。

結局それでは十分ではないということが明らかになるだろう。

サマーズ氏が特に噛み付いたのが会合で示された今後の経済見通しである。FOMC会合では失業率やインフレ率などの予想値が発表されている。

Fedは失業率が今後3年で3.5%となり、金利が彼ら自身が中立金利と考える水準までにすら上がらない見通しなのに、それが物価を急激に押し下げインフレはじきに落ち着くと考えている。わたしはそれが起こるとは考えていない。

金融業界で流行語のようになっていた「一時的」の文言も、12月の声明文からはついに消えた。しかしサマーズ氏はそれを信じていない。

Fedはインフレを軽減するために必要な規模の引き締めを経済に対して行おうとはしていない。彼らは要するに実際にはいまだインフレが一時的であることに賭けているのだ。

行動が伴っていないというのである。

インフレは止まらない

サマーズ氏は結果としてインフレは止まらないだろうと主張する。彼は次のように続ける。

不動産はCPI(消費者物価指数)の1/3を占めている。住宅価格は20%上昇しており、すべての民間の賃料の指標は2桁上昇だ。それがCPIに反映されるにはラグがあるため、CPIのそれらの項目は3%か4%上昇に留まっている。

だからCPIの不動産関連の項目はここから更に8%から10%ほど上がるはずだ。そのウェイトは1/3だから、CPI全体をほとんど3%引き上げることになる。

アメリカの現在のインフレは前年比で6%ほどだから、3%引き上がるとほとんど2桁となり、1970年代の物価高騰の時期とほとんど同レベルとなる。しかもサマーズ氏によればインフレ率を引き上げるのは不動産だけではない。

労働力不足によって時給の上昇率は加速し、労働市場は過熱している。賃金は究極的には企業の経費のもっとも重要な要素であり、わたしが話す企業やアナリストレポートなどによれば、上昇圧力は強い。

住宅価格と賃金に加え、Fedは2022年の経済成長が4%になると主張している。生産性が上がったわけでもないのに経済が4%成長し、労働力が不足するならば、これまでのインフレ要素(訳注:半導体など)が落ち着いたとしても新たなインフレの問題が発生するだろう。

サマーズ氏は次のように纏めている。

Fedは一時的という言葉は隠したが、インフレが勝手に落ち着くという考えを隠したわけではない。そしてその考えは間違っている。

ここの読者であればよく知っているように、中央銀行が間違っているのはいつものことなのだが、今回の間違いは日用品価格の高騰という形で消費者に大きなダメージを与えるだろう。

結論

現在、世界経済では、中国からの強力なデフレ圧力とアメリカからの強力なインフレ圧力がせめぎ合っている。

どちらが勝ってもろくなことにはならないだろう。というよりは両者は景気後退圧力という意味で同じものである。そしてどちらも経済に対する無思慮な緩和によって引き起こされた。

量的緩和と現金給付を行う政治家に投票した人々は、その責任を噛み締めながら2022年の高価な日用品をエンジョイしてもらいたいものである。投資家は金融市場を使ってインフレによる被害を回避させてもらおう。それは彼らの責任だからである。