マイナード氏のデフレ予想: インフレは抑制され株価は下落し金利は低下する

今回紹介するのは、12月21日に突如心臓発作で亡くなったGuggenheim Partnersのスコット・マイナード氏が自社ポッドキャストに上げていた最後のインタビューである。

長いインタビューだが、まずはマイナード氏が今後のインフレの推移と株式市場、債券金利について語っている部分を紹介しよう。

インフレと金融引き締め

Fed(連邦準備制度)がインフレを抑制できるのかどうかということが、ここ半年ほどの金融市場における最大のテーマとなっている。

このテーマについて、マイナード氏はまず次のように始めている。

まずはいつものようにミルトン・フリードマンの格言から始めなければならない。「インフレはいつでも何処でも貨幣現象だ」というものだ。

その意味するところを簡単に言えば、紙幣を印刷し過ぎるとインフレになるということだ。

フリードマン氏はマネタリストとして知られるマクロ経済学者だが、同じくマネタリストとして扱われるフリードリヒ・フォン・ハイエク氏は「紙幣をどれだけばら撒いてもハイパーインフレにならないというケインズの誤った論説を否定する者は全員十把一絡げにマネタリストとして扱われる」と不平を言っていた。

つまり「紙幣をばら撒けばインフレになる」という当たり前の経済学的事実を認識する人間は全員マネタリストなので、マネタリストとは経済学者という意味らしいが、マイナード氏は次のように続ける。

コロナ以来もう数年の間、大規模な紙幣印刷が行われてきたが、今やFedは恐らく自分たちがやり過ぎたのだという事実に直面している。だから今や方向転換しなければならなくなっている。

引き締めはやり過ぎか?

中央銀行と政府は緩和をやり過ぎた。

それでFedが金融引き締めを開始してからもう1年ほどになる。その間に株価は下がり、債券も下落し、インフレ率でさえも遂に急減速を始めている。

マイナード氏の現在の懸念は次の通りである。

重要な問題はもちろん、インフレを減速させるために十分引き締め的になったかどうか、引き締めをやり過ぎていないかどうかをどうやって知ることが出来るかということだ。

マイナード氏と、同じく債券の専門家であるジェフリー・ガンドラック氏は、インフレの減速前からFedが引き締めをやり過ぎている可能性を指摘してきた。

そして2人は正しかった。

マイナード氏はFedの金融引き締めのうち、バランスシートを縮小する量的引き締めの方にフォーカスしている。

Fedは必要以上に事態を難しくしている。彼らは利上げと同時にバランスシートの縮小をやっている。それはマネーサプライのように時間差で実体経済に作用する要素に大きな下方圧力を加えている。

マネーサプライとは、大まかに言えば経済の中に存在する現金の総量である。

ガンドラック氏も次のように述べ、量的引き締めについて警告していたことを思い出したい。

量的引き締めも経済に影響を与える。2018年12月、Fedは利上げと量的引き締めの両方を自動操縦で行ない、すぐに撤回せざるを得なくなった。サマーズ氏はその事実を見逃している。

マイナード氏が指摘しているマネーサプライがどうなっているかと言えば、実質マネーサプライの変化率は-6%となっており、1970年代の物価高騰時代の減少率のピークに近い水準となっている。長期チャートを掲載しよう。

同時に2020年と2021年の現金給付がどれだけ経済に現金を撒き散らしたかも確認してほしい。

今後の金融引き締め

マネーサプライを見れば、コロナ後に過度に緩和的になった金融状況が、今やかなり引き締め的になっていることが分かる。

今後のアメリカの金融政策はどうなってゆくだろうか。マイナード氏は次のように述べている。

Fedが前回の会合で0.75%の利上げは最後にすると言い、今後の利上げはマクロ経済の状況次第だと言ったことは正しい。

だが一方で、Fedはもう既にやり過ぎてはいないのだろうか。それは住宅市場や消費活動などのあらゆるデータに表れている。

住宅価格が下落トレンドに入っていることは報じている通りである。

アメリカ経済は金融引き締めで沈んでゆくのだろうか。マイナード氏は次のように答える。

経済はもう景気後退入りしているのかと聞かれるならば、多分そうだと思うというのが答えだ。

経済状況はFedの認識よりもかなり悪いだろう。

だが市場にはまだ多くのアニマルスピリットがあり、多くの現金が待機している。それは株式市場に侵入しているが、一旦それが枯渇すれば株価は下落し、恐らく債券の金利も下がるだろう。

結論

マイナード氏は次のように纏める。

Fedはインフレ率を下げることに成功している。だが恐らくやり過ぎている。

マイナード氏はインフレ率低下、景気後退、株価下落、金利低下を予想している。要するにデフレ予想であり、筆者のポートフォリオも現在同じ賭けになっている。

マイナード氏の株価予想については以下の記事に詳細が書いてあるので、そちらも参考にしてほしい。

彼の最後のインタビューは比較的長く、まだ紹介する内容があるので、21日に亡くなった彼の声をもう少しだけ聞くことができる。彼の最後の予想は当たるだろうか。楽しみにしたいものである。