世界最大のヘッジファンド: ドルが基軸通貨ではなくなる

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がCCGのインタビューで基軸通貨ドルの運命について語っている。

覇権国家アメリカの運命

ダリオ氏はコロナ以降、覇権国としてのアメリカの立場が揺らいでいることを論じている。コロナ第1波におけるロックダウン時に政府が負債を発行して大量の現金給付を行った時から、ダリオ氏は大英帝国やオランダ海上帝国が何故没落したのかについての研究を始めた。

そしてその理由は莫大な負債と紙幣印刷、その結果としての通貨暴落にあった。アメリカが現金給付というあからさまなばら撒きを行ったことにより、ダリオ氏はアメリカが大英帝国の最期のように没落へのプロセスへの第1段階に入ったと考えているのである。

彼がこの研究を始めてもうすぐ3年になるが、彼の立場は変わっていないようだ。彼は次のように述べている。

アメリカの基軸通貨としての立場はますます疑問視されてゆく状況にある。

何故か。覇権国としてのイギリスとオランダの没落がともに量的緩和によって始まったように、一番大きな理由は紙幣印刷をしているからだが、ドルの弱体化はもちろん実体経済の状況にも関係している。

ダリオ氏は次のように説明している。

部分的な理由は、アメリカはもはや貿易において支配的な国ではないからだ。例えば中国は、アメリカよりも世界貿易において多くの部分を占めている。

何故貿易大国であることが基軸通貨にとって重要なのか。その理由は、為替を動かすのが貿易における決済だからである。ダリオ氏と同じくドル凋落を予想しているCredit Suisseの天才ゾルタン・ポジャール氏の説明を思い出したい。

中国やロシア、サウジアラビアの経常黒字は過去最高の水準だ。だがそうした黒字の資金の多くは米国債のような伝統的な準備通貨の形では保管されていない。

その代わりにゴールド(例えば中国の最近の購入)、コモディティ(例えばサウジアラビアの採掘権への投資計画)、あるいはトルコやエジプト、パキスタンのような支援を必要としている隣国を助ける地政学的投資などへの需要が高まっている。

貿易において外貨を獲得した国は、獲得した外貨をどうするかという選択に迫られる。ドルが国際的に基軸通貨として認識されている間は、中国を含め多くの国が、アメリカとの貿易でなくとも、貿易をドルで決済し、ドルを自国通貨に両替することなくそのまま蓄えてきた。

中国はもう何年も前から貿易大国だが、それがドルの基軸通貨としての地位に影響を与えなかったのは、中国がドルを基軸通貨として認識し、ドルを買い、米国債を買ってきたからである。

だがダリオ氏は次のように続けている。

中国は最近まで貿易を自国の人民元では決済してこなかった。だが中国においても国際的にも、準備通貨や決済通貨にドル以外のものを使おうとする傾向が増えている。

アメリカの地位

「だがそれでもやはりアメリカ経済は巨大ではないか」と西側の偏向報道ばかりを聞かされている日本人には思えるかもしれない。

だが事実を見つめる人々にとっては、アメリカの状況は戦後まもなくの頃からかなり変わっている。それをアメリカ人であるダリオ氏が指摘している。彼は次のように述べている。

1945年にアメリカの覇権が始まったとき、アメリカは世界経済の半分を占めており、当時の世界通貨だったゴールドの80%を保有しており、軍事的な支配者だった。

だから今と同じような状況ではない。ソビエト連邦との対立は今とは比較できない。ソ連はそれほど経済的に大きくなかったからだ。

だが今や中国は世界2位の経済大国であり、しかも中国はひとりではない。

ウクライナ情勢において2014年からウクライナ政府に介入し、アメリカ人の代わりにウクライナ人をロシアと戦わせる準備をしてきたアメリカ政府の肩を持ち、ウクライナ人にどんどん死んでもらおうというのが日本人の総意だが、そうした意見を持たないもう1つの国であるインドは、最近イギリスを抜いて世界第5位の経済大国となった。しかもインドの経済成長率は高く、いずれ第4位のドイツを抜いて第3位の日本に近づくことになるだろう。

更に油田を抱える中東は、当たり前のことだがアメリカのことを良く思っていない国々で構成されている。経済規模が2位の中国と5位のインドを含むこれらの国々がドルを使わない準備を着々と進めている。

結論

そもそもこれまでドルの価値を支えてきたのが中国だったというのが、アメリカにとってのアキレス腱である。アメリカは知らずのうちに自分を支えてきてくれたものを攻撃し、自国通貨の価値を自分で毀損しようとしている。

更にいえば、もの不足で物価が高騰している状況で、あらゆるものの原材料であるエネルギー資源や金属、農作物などのコモディティを生産している国の多くが非西側だということがアメリカやヨーロッパにとって致命的である。

アメリカやヨーロッパや日本はいくらでも紙幣を生み出すことができる。ロシアや中東はエネルギーを生み出すことができる。インフレ主義に毒された日本人は前者を欲しがるのだろうが、ダリオ氏は以前こう言っていた。

われわれが消費をできるかどうかはわれわれが生産できるかどうかに掛かっているのであり、政府から送られてくる紙幣の量に掛かっているではない。

紙幣は食べられない。

だから現金給付でインフレを引き起こした西洋は、自分で自分を撃ったのである。

何故アメリカやヨーロッパはこうした自殺行為をするのか。その理由については以下の記事にまとめてあるので、そちらも読んでおいてもらいたい。