サマーズ氏: スタグフレーションの危険あり、高確率で景気後退へ

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、終盤に差し掛かっているアメリカの利上げと実体経済の先行きについて語っている。

サマーズ氏の注目する経済指標

最近はGDPなど大きな経済データの発表もあり、サマーズ氏は今どの経済指標に注目しているかを聞かれている。

だがサマーズ氏にとっての最重要指標はGDPではないようだ。彼は次のように述べている。

自分はECI(訳注:雇用費用指数)に注目してきた。理由は、労働市場がインフレの進行に関して鍵となっていること、四半期ごとにしか発表されないこと、そしてボーナスや労働力の構成の変化などの調整も考慮する、賃金インフレに関する最良の数字だからだ。

ECIの上昇率は4.8%程度で、年間の上昇も四半期の上昇もかなり強かった。賃金インフレが減速している証拠はあまりない。

ECIは前期比年率で4.7%となっている。グラフは次のようになっており、一度減速してからやや持ち直した形だ。

賃金はサービス業の主なコストになるので、インフレにとって重要である。だが少なくとも賃金は高止まりしていることは間違いない。

高止まりするインフレと悪化する銀行危機

だが一方で、アメリカ経済は全面的に強いわけではない。シリコンバレー銀行の破綻に始まる銀行危機は確実に悪化している。

数日前にここでも株価の暴落を報じたファーストリパブリック銀行は、預金流出を止めることができず、5月1日に正式に破綻した。残存資産はJPモルガンに売られることになる。

アメリカ経済は現在かなりいびつである。GDPが消費の大幅な増加と投資の大幅な減少の結果減速となったこともそうだが、利上げでダメージを受けている部門と「まだ」ダメージを受けていない部門の差が大きい。

だが不動産価格が上昇に転じている問題も含め、物価の部分が減速しないのであれば中央銀行は高金利を継続する必要がある。

しかしそうすれば、地方銀行のように既にかなりダメージを受けている部門は更に深刻な危機に陥ることになる。

サマーズ氏は次のように述べている。

スタグフレーションの問題が多少持ち上がってきているようだ。

インフレは基本的に目標を大幅に超えており、1年半のあいだわたしが言い続けているように、それ相応の経済の減速がなければインフレ率は目標まで戻らない。

どれだけ経済が痛んでもインフレ率だけ高止まりする状況がインフレのもっとも恐ろしいところである。アメリカ経済はそれに近づいている。

スタグフレーションに突入へ

だが物価上昇と景気後退が同時に来るスタグフレーションなど、ここの読者にとってはニュースでも何でもない。それは去年の始めの段階で筆者が予想していたことである。

そして債券市場は筆者の予想通りそれを去年の春から織り込み始め、今なお長短金利を逆転させ続けている。

通常長期金利が短期金利よりも高くなる債券市場で、今のように短期のほうが金利が高くなるのは、短期的な利上げによって長期的には経済が減速すると債券市場が予想するからである。

10年物国債の金利から2年物国債の金利を引いた長短金利差は以下のように推移している。

ちなみに歴史的には長短金利差の逆転が起こった後にはほとんど例外なく景気後退が起きている。

アメリカの金融政策見通し

この状況でFed(連邦準備制度)はどうするべきだろうか。米国時間で5月3日には金融政策決定会合であるFOMC会合を控えており、サマーズ氏は次のように言っている。

これはFedが経済の減速を目指すべきだということを意味するわけではない。だがFedがインフレ抑制のために必要なことをするならば、経済減速は起こりそうだ。

今後12ヶ月でそうなる可能性はかなり高い。恐らく70%ほどだろう。

また、3日のFOMC会合については次のように言っている。

Fedは5月には利上げをするべきだ。だが銀行の問題を考えれば6月にどうするかは議論があるだろう。

結論

このように、ほとんどの専門家がアメリカ経済について弱気な見方をしている。瀕死の銀行たちを引きずり回しながらも高金利を続けなければならないのだから当然である。

だが株式市場を短期的な動きだけ見れば、そのようなことは気にしていないように見える。

だが経験のある投資家であれば筆者の言いたいことがあるだろう。見飽きた映画ではないか。中央銀行がアグレッシブな利上げを行ない、何処かで何かが破綻して、明らかに経済は景気後退に向かっているが、株式市場はそれを無視している。

あまりにも見飽きた映画ではないか。直近では2018年がそうだった。だがそんなことは歴史上何度でも起きている。

2018年当時の記事が残っているので、株式市場がダンスを楽しんでいる間に当時の利上げによる世界同時株安のことを思い出しておくのも良いだろう。