トランプ政権が超長期債発行でジャンク債は暴落する

DoubleLine Capitalの債券投資家ジェフリー・ガントラック氏がアメリカの長期金利高騰を懸念して、3%を超える事態となれば高利回りのジャンク債が暴落すると予想したことは伝えたが、2017年ジャンク債暴落にはもう一つのシナリオがある。

それが何かと言えば、トランプ政権による超長期債、つまり50年物国債などの発行である。個人投資家の読者には債券市場はあまり馴染みがないものと予想するが、トランプ相場を予測する上で債券の金利は非常に重要であるので、アメリカの債券について連日取り上げている。

債券に厳しいトランプ大統領の経済政策

債券王と呼ばれるガントラック氏はトランプ次期政権の政策をbond unfriendlyと呼んだ。債券に優しくないという意味である。トランプ相場を一言で表現するならば、この言葉が相応しいだろう。

それは何故か? 国債を大量発行して減税とインフラ投資を行うトランプ氏の政策は、先ず債券市場に供給(つまりアメリカ政府による債券の売り)をもたらし、債券の価格を下落させる。そして景気刺激が経済成長とインフレを促せば、それは債券の金利を押し上げる(価格は下落する)ことになる。トランプ氏の政策は二重の意味でbond unfriendlyなのである。

そして金融引き締めであるところの金利上昇は実体経済を蝕み、金融市場から流動性を引き上げさせる。これが一部のヘッジファンドマネージャーらに株式バブルの崩壊懸念を抱かせているのである。

だからトランプ相場の行く末を占うためには、先ず金利を予想しなければならない。そこで本稿ではアメリカの債券市場がどうなっているのか、先ずざっと俯瞰してみたい。

アメリカの債券市場

先ずは債券の代表格である国債から眺めてゆこう。債券は基本的に満期までの期間が長いほどリスクが高くなり、その分支払われる金利が高くなってゆく。米国債の場合、1年物から30年物までの金利を並べると以下のようになる。

  • 1年物米国債: 0.9%
  • 5年物米国債: 2.1%
  • 10年物米国債: 2.6%
  • 20年物米国債: 2.9%
  • 30年物米国債: 3.2%

米国債には他にも種類はあるのだが、最長のものは一番下の30年である。また、一般的に長期金利と呼ばれるのは10年物国債の金利のことであり、トランプ相場で以下のように急上昇して投資家の注目を浴びている。

2016-12-18-10-year-treasury-note-yield-chart

しかし、債券とは国債だけを指すのではない。国が発行したものの他に企業が発行したものがあり、これは社債と呼ばれる。

ではこの社債の利回りはどうなっているのか? 一つのベンチマークとして社債を纏めたETFの利回りを以下のように並べてみたい。比較のために国債の利回りも再掲載する。

  • 1年物米国債: 0.9%
  • 5年物米国債: 2.1%
  • 10年物米国債: 2.6%
  • 20年物米国債: 2.9%
  • 30年物米国債: 3.2%
  • 3年物社債ETF利回り: 2%
  • 7年物社債ETF利回り: 2.7%
  • 15-25年物社債ETF利回り: 4-5%
  • 5-6年物ジャンク債ETF利回り: 5-6%

大雑把だがこんな感じである。

超長期債発行

さて、ここで思い出してみてもらいたいのが、財務長官に指名されているムニューチン氏の超長期債発行に関する発言である。CNBCによるインタビュー(原文英語)によれば、ムニューチン氏は「債務の期限を延長してゆくことを検討する。金利はいずれ高くなり、この国はそれに対処する必要があるからだ」と述べ、更に50年物や100年物などの超長期債発行の可能性について聞かれると、「われわれはすべてを検討する」と可能性を否定しなかった。

このインタビューによると超長期債発行は一つの可能性でしかないが、しかしそれと同じくらいのインパクトのある国債発行を彼が考えていることは読み取って良いのではないか。つまり、ガントラック氏の言う長期金利3%か超長期債発行、少なくともどちらかは実現しそうだということである。

ここでもう一度、長期の国債および社債の利回りを見てもらいたい。例えばこのなかに50年物米国債が飛び込んだ時、債券市場はどうなるだろうか?

  • 10年物米国債: 2.6%
  • 20年物米国債: 2.9%
  • 30年物米国債: 3.2%
  • 15-25年物社債ETF利回り: 4-5%
  • 5-6年物ジャンク債ETF利回り: 5-6%

先ず、50年物米国債の利回りは恐らく4%程度になるだろう。そうすれば15-25年物の社債ETFの利回りに迫ることになり、ジャンク債の利回りもそう遠くないものとなる。また、超長期債の発行そのものが国債市場全体の金利を押し上げることも考えれば、50年物国債の金利は4-5%になることになり、社債やジャンク債と並ぶことになるだろう。

さて、ここで考えてみてもらいたいのは、あるアメリカの大企業が20年以内に倒産する確率と、ジャンク債を発行するようなシェール関連企業が5年以内に倒産する確率、そしてアメリカ政府が50年以内に債務不履行に陥る確率、どれが一番高いだろうか?

勿論、満期までの期間の違う債券を単にリスクプレミアムだけで考えることは出来ないのだが、しかしこうした事情を考えれば、50年物米国債が発行された場合、社債やジャンク債の投資家はかなりの程度そちらに流れると想定しても問題ないだろう。その場合、長期の社債やジャンク債の利回りはそれぞれ1-2%は押し上げられてもおかしくはない。そして繰り返しになるが、金利上昇は債券価格の下落を意味するのである。

結論

投資家は「トランプ政権はbond unfriendly」の意味をもう一度よく考えてみるべきである。そしてもう一つの疑問は、トランプ次期大統領は本当に金利上昇を許すのか? ということである。

だから今後のシナリオは以下の二つに限定される。トランプ大統領が金利上昇を顧みずに国債の大量発行を行い、ジャンク債や長期の社債が暴落するか、あるいはトランプ大統領が中央銀行に圧力をかけて金利を下げさせ、その結果金価格が暴騰するかである。このジレンマについてはトランプ氏の当選直後から指摘し続けている。

では、それに賭ける方法は何か? 債券のプット・オプションと金のコールオプションを同時に買うことである。そうすれば少なくともどちらかは利益が出、外れた方のポジションの損失は限定される。古典的なオプションの使い方である。

あとはいつ、いくらで、そしてオプションであればどの期間買うのかということが問題となる。ベンチマークとなる長期金利で言えば、金利上昇の臨界点はかなり近くなっている。

こうしたアイデアは今後考えられる投資戦略の一つでしかないが、こうした状況ではあらゆる市場でのあらゆる戦略を検討してゆくことが重要である。少なくとも、一つのシナリオだけに賭けられない以上、複数のシナリオに賭ける複数のポジションを作り、ポートフォリオ内でリスクを調整してゆくことになるだろう。投資とは特定の銘柄の上げ下げを当てることではないのである。