世界最大のヘッジファンド: トランプ相場で株価上昇は完全に論理的

2017年の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)はぱっとしないイベントとなった。普段ならば世界中の富豪たちがプライベートジェットで集い、シャンパンを片手に「世界の中心にいる自分達が今後どう世界を良くしてゆくか」を語らう豪奢な社交の場だったはずなのだが、イギリスのEU離脱やトランプ大統領の誕生で面目を潰された今年のダボスのエリート達の心象には何処か困惑と気まずさが見受けられた。

そしてエリート達の困惑を作り出した当のトランプ氏はダボスに来ていない。イギリスのGuardian誌はそのような今年のダボスを「ハムレット王子のいない劇ハムレット」(原文英語)と呼んだ。目玉とされた中国の習近平主席の講演も、グローバリズムと中国というトランプ氏に批判された者同士の擦り寄り合い以上のものにはならなかった。中国がグローバリズムに心から共感するはずがないので、それは当然の結果である。

今回の世界経済フォーラムから価値ある発言を拾うとすれば、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が2017年の相場について述べた発言くらいのものだろう。ということで、前置きが長くなったが、本題に入ってゆきたい。

「株高と金利上昇は完全に論理的」

2017年は非常に難しい相場である。著名投資家の間でも意見が割れている。トランプ相場前の2016年もある意味では難しいものだったが、しかし著名投資家らの意見は方向性としては一致していた。

そのような環境においても世界最大のヘッジファンドを率いるダリオ氏の意見は最も参考になるものの一つであり、今年に入ってからも度々紹介してきたが、ダボス会議でダリオ氏が述べた相場観を紹介してゆきたい。

先ず、トランプ相場で経済成長とインフレを期待して株価が上がり、金利が上昇していることについて、この動きは論理的かと聞かれたダリオ氏は、以下の様に答えた。

完全に論理的、完全に論理的だ。トランプ政権は基本的に既知の政策を行おうとしているだけだ。彼らは税率を変えると言っており、市場はそれを織り込もうとしているのだから、その動きは論理的だ。

トランプ政権は法人税を下げると公約しており、法人税が下がればその分純利益(税引き後)が増えるので、株式にとっては当然プラスである。以前説明した通り、アメリカの企業利益は実は2012年から伸びておらず、米国株が上昇してきたのは別の要因によるものなのだが、そこに利益の増加という正当な要因が加わろうとしているのである。

保護主義の行方

ただ、ダリオ氏は財政政策という古典的な要因だけではなく、よりトランプ政権に固有な側面も指摘する。保護主義である。

トランプ氏は海外に奪われた雇用をアメリカに取り戻すと言っている。矢面に立たされているのは輸出で成長してきた中国と、安い人件費を武器にアメリカの労働者と競争しているメキシコである。

多くの米国企業が賃金の安いメキシコに工場を作って製品をアメリカに輸出しており、トランプ氏はアメリカから雇用が奪われたとしてそうした動きを批判している。

こうした保護主義についてもトランプ氏が何処まで本気なのかと投資家は注意深く見守っているのだが、ダリオ氏はこの保護主義についてやや興味深いことを言っている。

企業家が「何処で事業を行おうか? 中国か、それともアメリカか?」と考えたとする。今や、アメリカの国境はより保護主義的であり、国境の中にはビジネスに友好的な環境がある。トランプ政権が低くすると言っている法人税、そしてアメリカは金儲けをしてもいい環境(訳注:中国の共産主義的な雰囲気と比較しているのだろう)だ。適切な法のルールもあり、財産権もしっかりしている。結果、アメリカは企業家にとって好ましい場所となる。

ダリオ氏はやや言葉を選びながら話していたが、要約すれば、アメリカは中国よりも事業を行う環境として魅力的であり、保護主義の結果ビジネスの誘致で競争することになればアメリカが勝つだろう、ということを言いたいようである。

トランプ相場における中国元安

ダリオ氏の主張が正しければ、その結果は恐らく、ドル高中国元安となるだろう。ドルの金利上昇は既に大量の資金を中国元から米ドルへと流出させたが、アメリカに投資が集まるということは、資金がドルへと吸い寄せられるということである。

以下はドル元(オフショア人民元)のチャートだが、トランプ氏が大統領選で勝利してからドル元相場はドル高に推移しており、その後ややリバウンドしているが、その後の推移が注目されている。

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中国経済については著名投資家のジム・ロジャーズ氏がトランプ政権の政策を理由に弱気転換しているが、それは正しいのだろう。ただ、その結果が中国株に出るのか、あるいは為替レートに出るのかという点には考察が必要だろう。

ダボス会議で習近平氏がグローバリスト達に擦り寄ろうとしたのも頷ける。アメリカがロシアと和解しようとしている以上、中国としては縋れるものが他にないからである。別に中国とロシアは価値観にそれほどの一致はないのだが、アメリカに敵視された者同士、ある程度協力してきた経緯がある。中国には歴史的に真の友好国がなく、ある程度利害の一致したものと一緒にやってきたのである。

そして今回、中国はダボスで友人探しを試みたということである。グローバリストと中国が奇妙な利害の一致を見出し、そしてアメリカに背を向けられたダボスというのもなかなか見ものである。

ダリオ氏はスター不在のダボスで特に人気の参加者となっていた。彼は他にも現在の株価水準について発言をしていたが、既に長くなったので別の記事で取り上げたい。