Form 13F: ソロス氏、アインホーン氏は米国株空売りを拡大か

毎四半期恒例、SEC(米国証券取引委員会)によりForm 13Fが公開され、機関投資家の2014年末時点での米国株のロングポジションおよびオプションの買いポジションが公開された。

Form 13Fは1ヶ月半遅れでのポジションの公開であり、かつ空売りや先物のポジションは公開されないので、これだけを見てどのファンドが米国株を買っているとか売っているとか言えるものではないのだが、同業者であれば、現物の買いポジションを見るだけでも、そのポートフォリオに秘められた考えのいくつかは読み取れるものであり、その投資原則が短期的に変わるものでなければ、そのファンドがどの銘柄を今も持っているか持っていないかは大体分かるものである。

さて、2014年の4Qであるが、Form 13F以外の情報も含めて主だったものを纏めてみたい。

先ず、アインホーン氏のグリーンライト・キャピタルは米国株空売りの比率を増やした。ファンドの投資家向け書簡によれば、ファンドのポートフォリオは、運用資産に対してロングが96%、ショートが66%であるから、ネットで30%のロングポジションを持っていることになる。2014年3Qではロングが114%、ショート75%、ネット39%、2Qではロング115%、ショート71%、ネット44%であったから、着実に買い持ちを縮小してきていることになる。2015年中旬に予定されている利上げとそれによる流動性縮小を警戒していると思われる。

Form 13Fによれば、ジョージ・ソロス氏はS&P 500のプット・オプションの買いを精算しているが、これはS&P先物の売りに移行したということだろうと思う。ここまで米国株の買い持ちをヘッジしてきた彼が、このタイミングでヘッジを外すとは考えがたい。

内容も出処も不明瞭な記事ではあるが、割高な米国株についてはソロス氏も警戒し、資金を欧州株とアジア株に移したとブルームバーグ(原文英語)が報じている。ソロス氏のポジションについては昔からデマが流れるものなのだが、ソロス氏が前々から米国株の割高と利上げの開始を警戒していたのは事実であり、資金を量的緩和のある他の市場に移したというのは理解できる。

要するに、優れた投資家は、やはり量的緩和への終了と利上げが米国株に大きな影響を与えるという点では一致しているのだと思う。これについては何度も書いてきた通りである。

暴落の直前では、リスク管理のできない投資家のパフォーマンスが、世界のトップファンドマネージャーのパフォーマンスを上回ることがある。優れた投資家が暴落の前にリスクのヘッジを始めるのに対して、凡庸な投資家は暴落の後にロングポジションを手仕舞うからである。優れた投資家ほどヘッジが早過ぎるということがあるが、それでも遅すぎるよりはよほど良いのだと個人的には考えている。

個別株では、アインホーン氏がApple (NASDAQ:AAPL)のロングポジションをやや手仕舞いながらも最大ポジションの1つとして維持したのに対し、ソロス氏は完全に手仕舞ったようである。

アインホーン氏とは大局的な視点では一致することが多いが、個別株ではしばしば同意できないことがある。Appleはもう割安と呼べる水準はとうに過ぎたと個人的には思う。彼が3Qで空売りを始めたとしたAmazon (NASDAQ:AMZN)も、割安ではないが、空売りするほどに割高な水準ではない。しかし彼のもう1つの最大ポジション、Micron (NASDAQ:MU)については下記の記事で推奨した通りであり、これは4QのForm 13Fでもグリーンライトの最大ポジションの1つとして維持されている。

一方、ソロス氏の最大ポジションはAlibaba (NYSE:BABA)であり、3Qの頃からポジションが拡大されている。次に大きいのはアルゼンチンの石油会社YPF (NYSE:YPF、Google Finance)である。長らくホールドしていたイスラエルの製薬会社Teva (NYSE:TEVA、Google Finance)は2013年から50%の上昇を見せ、やや利益確定して3番目のポジションとなった。しかしいずれもアメリカの企業ではなく、個別株からも彼の米国株への興味の薄さが伺える。

3Qで保有していた新興国株式のETF、iShares MSCI Emerging Markets ETF (NYSEARCA:EEM、Google Finance)のプット・オプションは決済されており、見事なタイミングでの新興国空売りとなった。これはやはり流石である。

ソロス氏の個別株の選択は見るからに老練しており、いつも読んでいて面白い。アインホーン氏は若い投資家の銘柄選択という感じだが、大局観は世界最高の投資家のものであり、将来を楽しみにしている。Form 13Fは機関投資家にとっても面白い読み物なのである。ちなみにわたしのポートフォリオ構成は下記の記事で公開してあるので、こちらも参考にしてもらいたい。