世界最大のヘッジファンド: 米国株は買われすぎではない

ここ何ヶ月も金融市場があまり動いていないので著名投資家のコメントも少なめだったが、世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏がグリニッジ経済フォーラムで久々にコメントを出しているので紹介したい。ダリオ氏らしく言葉を選んでいるが、暗喩していることはむしろ鮮烈である。

実体経済は徐々に締め付けられてゆく

先ずは経済に関する発言からである。ダリオ氏は相変わらず国の借金に加えて年金や保険など高齢化によって支払いの増えてゆく債務について心配している。

経済が直面しているのは長期的にはほとんど通貨の問題だと言って良い。負債だけではなく、年金や保険など負債のように支払い義務のあるものが積み上がったとき、通貨の価値はどうなるのかということだ。これらの義務は支払われるという約束があるが、それは増税によって支払われるか、債務不履行になるかどちらかだろう。

不履行になる可能性は低いと思われるので多かれ少なかれ支払われるのだろうが、税金を上げすぎるとこの仕組みの経済的本質を変えてしまう。

論旨自体はここでも紹介してきたダリオ氏の論であり、負債と年金と保険の支払い義務が長期的な引き締め効果をもたらすというものである。しかしそれを「通貨の問題」と呼んでいることは面白い。遠回しにドルの下落を心配しているのである。

何故ドルの下落を心配しているのか? それはダリオ氏の次のコメントを読めば分かるだろう。

有り得る将来は、先ず紙幣をもっと印刷するということだ。それはこれらの負債を支払うために必要となる。

紙幣を印刷するとは量的緩和のことである。ヨーロッパ、アメリカともに最近実質的に量的緩和を再開した。

結局これらの措置は物価目標とは何の関係もなく、膨大に膨らんだ債務の負担を無理矢理減らすために金利を低くしているということである。金利が低くなれば利払いも減るからである。しかしそれも限界に達しつつある。

また、金融市場について述べた部分は更に面白い。

それに、投資のリターンは悪くなるだろう。夢のような話を謳って会社を売り出してきたことがこれまでの原動力になってきたからだ。彼らは会社の収入ではなく夢のような話を売り出してきた。これらのことはいずれ正常化されなければならない。

ダリオ氏のように言葉を選ぶ人でなければ、もっと厳しい言い方になっていたのかもしれない。要するに、利益も出ないのに夢を語って株価を釣り上げてきた会社が沢山あり、それらのバブルは崩壊しなければならないと言っているのである。明らかにソフトバンクのウィーワークへの投資が失敗していることを念頭に置いている。こうした会社が山ほどあり、それらの株価は「正常化される」のである。孫正義氏には耳の痛い話だろう。

しかしダリオ氏の今回の見解は長期的なものである。株式市場の現在の水準についてはどうだろうか? 米国株は最近市場最高値をようやく更新した。ダリオ氏は次のように述べている。

株式市場の水準は(レンジから抜け出して新たな高値を目指す)ブレイクアウトだとは思わない。ただ、特に買われすぎているとも思わない。

個人的には、年末年始辺りにイギリスのEU離脱と米中貿易戦争が落ち着くと予想されるが、それらが解決されて市場が高値を取った後どうなるのかに注目している。それまではかりそめの相場である。