ネイピア氏: トランプ大統領の貿易戦争はアメリカの過激なインフレに繋がる

引き続き、The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏の、Resolution Foundationによるインタビューである。

今回はトランプ政権の関税政策がどういう結末を生むのかについて語っている部分を紹介したい。

トランプ政権の貿易交渉

ネイピア氏は前回の記事で、トランプ政権がアメリカの貿易赤字を問題視し、中国の貿易黒字を敵視していることを指摘していた。中国がアメリカにものを売りすぎているためにアメリカは大赤字だということである。

だが中国は貿易で儲けたドルを自国通貨に両替せず、その資金でドル資産を買ってきた。つまり外貨準備を積み上げてきたのである。

だからトランプ政権が中国の貿易黒字を減らそうとすることは、アメリカが自分で米国債の買い手を減らそうとしていることに等しい。

トランプ政権の反中包囲網

ネイピア氏は続けて、トランプ政権が具体的にどのように中国の貿易黒字を減らそうとしているかを述べている。

トランプ政権は単に中国に高額の関税を課し、中国がアメリカに輸出できないようにしているだけではない。

ネイピア氏は次のように述べている。

トランプ大統領は中国の貿易黒字を減らそうとしている。その方法はアメリカ自身の行動だけではなく、例えばイギリスとの貿易合意を見るべきだ。

イギリスとの合意には次の1行がある。イギリスとアメリカは経済を人為的に歪める国々に対して立ち向かう。

これはぼかした言い回しだ。「経済を人為的に歪める国」がどの国を指しているかは誰でも分かる。

アメリカのすべての貿易交渉にその項目が含まれている。

トランプ政権は各国との貿易交渉において、反中国の包囲網を敷こうとしている。

トランプ氏は強気である。アメリカは中国の輸出品を買っている客であって、アメリカが中国の製品を買わなくなって困るのは中国だと思っているからである。

しかし一方で、債券市場を見ればアメリカはお金を借りている側であって、中国は貸している側である。

包囲された中国

こう考えれば立場関係は逆転する。中国は貿易黒字を米国債購入の資金にしていたのに、トランプ政権がここまでしてそれをなくそうとすれば、中国はどうするのか。

ネイピア氏は次のように言っている。

中国に貿易黒字を減らすよう圧力をかけることは、現在の為替の仕組みからいって中国にデフレを押し付けることに等しい。

だが今の中国はただでさえデフレになっている。

中国の貿易黒字を減らすことは、二重の意味で中国にとってデフレに繋がる。

まず財政赤字が悪化するので、財政支出による景気刺激が出来なくなる。また本来海外に輸出する製品が国内に留まるので、国内で製品が過剰になってデフレになるのである。

そして、知っての通り、中国は長年の不動産バブルの崩壊によってそれでなくともデフレになっている。

中国の金融緩和開始

さて、バブル崩壊中の中国がトランプ政権によってデフレを押し付けられればどうなるのか。

ネイピア氏は次のように言っている。

この状況で中国はどうするだろうか? 中国は貿易黒字と外貨準備を積み上げるのを止めはするが、為替レートの管理だけ続けるだろうか?

中国はこれまで、ある程度ドルに対し為替レートを固定しながら貿易黒字を溜め込み、ドル建て資産を買ってきた。

トランプ氏は、中国が自分の言うとおり貿易黒字は減らしはするが、ドル資産の保有はそのまま続け、為替レートも動かさないと信じているのだろうか?

だがそれは過剰な楽観ではないだろうか。中国がドル資産を積み上げていたのは貿易黒字の結果であり、貿易黒字がなくなればドルの保有もなくなると考えるのが自然である。

しかも中国がデフレに追い込まれれば、中国国内で何が必要となるだろうか? インフレ政策である。つまり人民元の下落である。

保護主義の激化

結果として、中国はトランプ政権の政策によって通貨安政策に追い込まれ、中国の製品はアメリカにとってますます安価になる。

トランプ大統領からすれば、そんなものはとても輸入できないだろう。そうして関税が上がってゆく。

ネイピア氏は次のように述べている。

中国で通貨安が発生し、西側諸国で保護主義が悪化する。

アメリカが保護主義を進めれば薦めるほど、アメリカに輸出していた国は通貨安政策に進んでゆくことになるだろう。

そして最終的にはアメリカは何も輸入できなくなる。トランプ氏の望んでいる通り、すべてがアメリカ製になるだろう。

また、アメリカも同じように通貨安政策に追い込まれそうでもある。すべての通貨が下がるならば、上がるのは何か? 貴金属にとって最高の環境が整いつつある。

結論

レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想している西側と東側の分断が進んでいる。

ダリオ氏の見立てでは、その分断は経済だけではなく軍事的対立にも繋がってゆくそうである。


世界秩序の変化に対処するための原則