Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏が自社配信動画で資金の保管場所としてのアメリカについて語っている。
トランプ政権のゴールドへの関税
ことの発端は、トランプ政権が金地金に対して関税を掛けると言い始めたことだ。
米国関税国境警備局が今月8日、金の延べ棒に対して関税を39%の関税を課すという内容の発表をした。アメリカと外国とのゴールドの流通を実質的に制限する内容であり、資本統制だと市場がざわついた。
トランプ大統領は結局ゴールドに関税はかからないと宣言したのだが、フォン・グライアーツ氏は今回のこの個別の関税が取り消されるのかどうか自体は重要ではないと思っているようだ。
フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。
アメリカから抜け出すべき時だ。理由は単純だ。アメリカは無法地帯になりつつあるからだ。
アメリカの未来
フォン・グライアーツ氏が言っているのは、個別の関税やトランプ大統領の発言のことではない。アメリカの政治経済のもっと長期的な方向性のことである。
アメリカはゴールドの輸出入の規制を手札に持っているのであり、トランプ大統領はそれが必要だと判断すればその手札を使うだろう。
そしてそれは恐らくゴールドに関してだけではない。だからフォン・グライアーツ氏は次のように言っている。
このような無法な独裁の下では、早くアメリカから抜け出すべきだ。何故ならば、状況はどんどん悪化するからだ。
単に関税が課されたり取り消されたりするだけではない。
トランプ政権のこのような気まぐれを考えれば、ゴールドの保有者としては、そんな無法な振る舞いをするアメリカにゴールドを置いておくことはできない。
アメリカの資本統制
具体的にどうなるのか。フォン・グライアーツ氏は次のように続けている。
まず最初に、いずれかのタイミングで為替に規制がかかり、アメリカから資金を引き出すことができなくなるだろう。それはそれほど遠い話ではないと考えている。
わたしならそのリスクは取らない。
更に、米国政府はアメリカの銀行口座にある資金の一部を米国債に長期投資することを強制する可能性が高い。米国政府が資金を必要としているからだ。
フォン・グライアーツ氏が言っているのは、アメリカの米国債に買い手がいないという話である。
より厳密に言えば、コロナ後の金利上昇で米国債の利払いが財政赤字の半分までに急増したため、米国政府は米国債を大量発行する必要性に駆られており、大量発行される米国債に対して買い手が足りないのである。
Bridgewaterのレイ・ダリオ氏の予想によれば、米国債がこの買い手不足の問題を避けられる可能性は5%らしい。
だからフォン・グライアーツ氏は、米国政府が米国債の買い手不足の問題に直面したとき、米国内の銀行口座の中にある資金に米国債の買いをある程度強制すると予想しているのである。
結論
ちなみにこれはフォン・グライアーツ氏の独自の予想ではない。ダリオ氏が国家の破綻をテーマとして書いた新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)を読めば分かるが、国家が国債の下落に直面したとき、自分の影響下にある誰かに国債の買いを強制させるのは歴史上よくあることだからである。
例えば、大英帝国は自分の植民地の国々に英国債の買いを強要した。アメリカは自分の「友好国」にそれを強要するかもしれない。有りそうなことではないか。そもそも日本は既にその状態になっている。
多くの人は「自分はアメリカに口座を持っていないから関係ない」と思うかもしれないが、米国株を買っている人は、自分の投資している米国企業が当然アメリカに銀行口座を持っていることを忘れてはならない。
ダリオ氏の新著は日本語版がないが、英語が読める人は原著で読むことをお薦めしたい。