ポジャール氏: ゴールドが決済手段になり金価格は2倍へ

Credit Suisseの短期金利ストラテジストであるゾルタン・ポジャール氏が、アナリストレポートの中でロシアの原油をめぐる争いを分析し、天才的な発想で金価格が2倍になるシナリオについて述べている。実際にそうなるかどうかは別にして、非常に面白いので紹介したい。

ロシア産原油の価格上限

ロシアによるウクライナ侵攻以後、西側諸国はあらゆる方法でロシアに経済制裁を課そうとしてきた。そして最新のものはロシア産原油の価格制限である。

アメリカなどの西側諸国はロシアの原油を買う場合に価格上限を設定し、安く買えなければ買わないという姿勢を示している。

ロシアはもちろん不当な安値では売らないと言っている。困るのは、ただでさえエネルギー資源が不足しているヨーロッパや日本だろう。アメリカは産油国であり、日本やヨーロッパがロシアから原油を買うことを禁じる一方で自分が代わりに輸出して儲けている。

だがロシアも影響を受けないわけではない。これまで以上に中国やインドなど特定の国に大量の原油を売らなければならなくなる。

そこでポジャール氏は、ロシアが原油の代金の支払い手段をゴールドに限定することで西側の制裁に対抗する方法があると主張する。

ポジャール氏によるロシアの対抗策

どういうことだろうか? 原油の代金をドルでもルーブルでもなくゴールドで払わせることで何故ロシアが得をするのだろうか?

ポジャール氏は次のように説明する。

ロシアの原油購入の際の60ドルの価格上限は、(現在の市場価格では)1グラムのゴールドの価格に等しい。

60ドルというのは、現在の原油価格よりも多少安い水準である。アメリカにおける原油価格のチャートを掲載しよう。

この水準までしか下げられなかったところに、エネルギー価格高騰で苦しむ西側諸国の限界がある。

そしてこの60ドルという価格は1グラムのゴールドの価格におおよそ等しい。

ポジャール氏は次のように続けている。

この価格上限を固定相場制のように考えよう。アメリカ主導のG7はロシアの原油を60ドルで固定する。ここで代わりにロシアが自国の原油を同じ価格でゴールドに対して固定するとする(つまり、1バレルの原油を1グラムのゴールドで売る)。

これで以下の図式が成り立つ。

  • 60ドル = 1バレルのロシア産原油 = 1グラムのゴールド

「60ドル = 1バレルのロシア産原油」の部分は西側がコントロールしている。ここにロシアが原油とゴールドの交換を加えると、その部分はロシアがコントロールできる。

そしてどうなるか? ポジャール氏の話の続きは以下の通りである。

西側がロシアの原油を安値で買おうとするならば、ロシアは代わりに西側が拒否できない条件を対抗手段として課すことができる。ゴールドを高値で買わせるということである。

もし1バレル60ドルの西側の価格固定に対して、ロシアが2バレルを1グラムのゴールドに固定することで対抗するならば、金価格は倍になる。

どういうことか? 「1バレルの原油 = 1グラムのゴールド」の部分を、ロシアが「2バレルの原油 = 1グラムのゴールド」に変えればどうなるかということである。上記の式は次のように作り変えられる。

  • 120ドル = 2バレルのロシア産原油 = 1グラムのゴールド

金価格が2倍になった。

金価格が2倍になればどうなるか?

それでどうなるのかという疑問が浮かんだ読者は、金価格が上昇して得をするのが誰かということを考えてみると良い。

得をするのはゴールドを多く保有し多く生産できる国である。そしてゴールドの生産量は、1位が中国、2位がロシアである。

更に、最近金属市場では匿名の買い手が大量のゴールドを買い付けていることが話題になっており、恐らく中国かロシアではないかと言われている。

ウクライナ以後、アメリカはドル資産の凍結をちらつかせることで、ロシアに対する経済制裁に加わらない中立国に圧力を加え続けており、中立国はドルの保有を減らす必要性に迫られている。それで代わりにゴールドが買われているわけである。

この状況で、ロシアが原油への価格上限の対抗策としてゴールドでの支払いを義務付ければこのようなことが可能になる。ポジャール氏は次のように続けている。

金価格が1,800ドルから3,600ドルに上昇すれば、ロシアの備蓄するゴールドや、ロシアが自国やアフリカで生産するゴールドの価値が上がる。

金価格は今のところ以下のように推移している。

結論

天才的発想と言わざるを得ないだろう。ポジャール氏は次のように言っている。

クレイジー? そうだ。起こりそうにない? ノーだ。今年はマクロにおいて考えられないシナリオが次々に起こった年なのだ。

だがこのシナリオが実現するかどうかは別にしても、やはりこういう状況では特定の国に影響されない決済手段というものが重宝される。第一のものは貴金属である。

大して利用価値のないゴールドの価格がこれほどまで上がってきたのは、ゴールドの富の貯蓄手段としての価値が評価されてきたからだと言える。ウクライナ以後の状況でその価値がこれまでよりも高くなるとすれば、金価格は上昇せざるを得ない。

ポジャール氏は次のように述べている。

ロシアが原油の支払いをゴールドに限定すれば、決済手段としてのゴールドの本質的価値は急激に高まる。

そして恐らく今後そうなるようなシナリオは、原油の支払いでゴールドが使われる可能性だけに限られないだろう。戦争の状況下で貴金属が重宝する状況はいくらでも考えられる。

金相場については、ポジャール氏の大局的な見方に、トレーダーとしての短期的な値動きの予想を加えてトレードしたいものである。今後数ヶ月の動きについては以下の記事を参考にしてもらいたい。