フォン・グライアーツ氏: 政府発表のインフレ率の数字は低く出るように操作されている

Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏が、自社の配信動画でサイモン・ハント氏とともにインフレと関連する経済統計について語っているので紹介したい。

アメリカのインフレ動向

コロナ以来、インフレが問題になっている。アメリカのインフレ率も一旦落ち着いたように見えるが、それがトランプ政権の金融緩和で再加速するのかどうかが金融市場の議論の的である。

この3つの記事のタイトルだけでアメリカの金融政策の状況がよく分かるだろう。

さて、しかしである。われわれは、そもそもインフレが落ち着いてきたということをどうやって知るのか? 政府が発表しているCPI(消費者物価指数)などのインフレ統計によってである。

しかしフォン・グライアーツ氏がインタビューしているハント氏は次のように言っている。

どの国もインフレ率の数字が低く出るように操作している。アメリカは1980年代からそれをやり続けている。米国政府は当時、インフレ統計の計算方法を変更した。

だから本当のインフレ率は常に発表されている数字よりも数パーセント高い。

インフレ統計は信頼できるか

筆者は常々思っていたことだが、インフレ統計とは物価の上昇により紙幣の実質的な価値が下がらないように監視するためのものである。

しかし現代のインフレの大部分は、コロナ後も1980年代もそうだが、現金給付や金融緩和など政府のインフレ政策が引き起こしたものである。

そして政府は人々の持っている紙幣の価値を犠牲に、自分の財政難を何とかするために中央銀行に紙幣を印刷させ、国債を購入させている(量的緩和)のである。

であれば、政府がインフレを引き起こしているかどうかを監視するためのインフレ統計の発表を政府に任せているというのは、泥棒に自分が何を盗んだかを自己申告させているようなものではないのか?

しかし、フォン・グライアーツ氏はインフレ率が操作されていることをどうやって知ったのか? 実は、インフレ率の操作はそれほど隠された事実ではない。何故ならば、上でフォン・グライアーツ氏も述べている通り、統計の計算方法の変更は公に行われており、どう変更されたかも公開されているからである。

そしてその辺りの事情を詳細に研究した人がいる。フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

すぐに削除された論文だが、ラリー・サマーズ氏のチームがCPIのデータを1983年まで精査し直したところ、去年のインフレ率は9%だという調査結果があった。

また、ジョン・ウィリアム氏がアーサー・バーンズ氏の時代までCPIを調査し直して計算したところ、去年のインフレ率は彼の計算では10.8%という数字になった。

ここで出てくるのがラリー・サマーズ氏である。元財務長官で、政府側の立場にいるマクロ経済学者のうち唯一のまともな頭脳の持ち主であり、ここでも彼の意見は定期的に記事にしている。

そのサマーズ氏が、米国政府による統計の計算方法の恣意的な変更を怪しんでその内容を精査する論文を書いた。サマーズ氏は、トランプ政権の政策でインフレが再燃することを懸念している。

ちなみに米国政府が発表した去年のインフレ率は、3.0%だった。

結論

インフレ率の操作は、実はそれほど隠された真実でもない。何故ならば、「CPIの計算方法を変更します」と言ってしまえば、サマーズ氏を含む世界の数人を除けば、それを疑おうとする人はほとんどいないからである。

日本政府のやり方はもっと稚拙で、以下にコロナ禍における日本政府の明らかにおかしいインフレ率の計算方法について指摘してあるので、そちらも参考にしてもらいたい。しかしそれでも筆者以外誰も突っ込まないのである。

筆者のようにドルであれ円であれ紙幣をもはやほとんど所有していない人には関係のない話ではあるのだが、紙幣を持っている人にとってインフレ率は自分の資産の価値を計る重要な指標である。

その重要な統計を、円安政策などによって紙幣の価値を下げようとしている政府自身に任せているという事態には、疑問を持っておくべきだろう。

フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。

われわれは自分の資産を守らなければならない。

フォン・グライアーツ氏は、こうした理由から紙幣を信じておらず、貴金属にシフトすることを強く薦めている。そちらの記事も参考にしてもらいたい。