世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、The Diary of A CEOによるインタビューで、世界的な有事における危機管理について語っている。
ダリオ氏の未来予想
ダリオ氏はこれまで多くのことを予想してきた。2018年に出版した『巨大債務危機を理解する』では、ダリオ氏は量的緩和はいずれ現金給付に進化すると書き、コロナ後の現金給付を2年前に予想していた。
また、2021年11月に出版された著書『世界秩序の変化に対処するための原則』では、ダリオ氏は歴史上の覇権国家はインフレと債務過多で衰退したというテーマについて書いているが、そこでは覇権国家がインフレと債務問題で苦しむ状況下では、戦争が発生することが多いと指摘しており、その3ヶ月後の2022年2月にはロシアがウクライナに侵攻したのである。
覇権国家の衰退と戦争の勃発
なぜインフレと戦争が関係するのか。戦争でインフレになるならまだしも、ウクライナ戦争はコロナ後のインフレより後だったのである。
ダリオ氏の論理はこうである。覇権国家が軍事的にも経済的にも強い間は、覇権国家が国際政治で好き勝手に振る舞っても誰も文句を言わない。
しかし経済大国は次第に自力での経済成長から、金融緩和と借金に依存した経済へと移行する。そして利下げや量的緩和が続けられ、いずれインフレ政策がインフレを引き起こし、金利が上昇して国債の利払いが財政赤字を増加させ始める。
財政が圧迫されるということは、軍事支出も自由にできないということである。だから政府債務の問題とは覇権の維持にかかわる問題なのである。スコット・ベッセント財務長官もそれは認識している。
覇権国家の覇権がこのようにして弱まるとき、何が起きるか? これまで覇権国家の振る舞いを我慢していた国がそれを我慢しなくなるのである。そうしてロシアはウクライナに侵攻し、ハマスはイスラエルを攻撃した。
インフレと戦争の時代
だからダリオ氏は、2021年の著書で戦争が来ると書いた。そして2022年にヨーロッパで戦争が起こったのである。
一般の人々にとっての問題は何か? ダリオ氏の予想が正しければ、これらの戦争は偶然起こったものではなく、むしろアメリカの債務問題が悪化するにつれてどんどん戦争が増えてゆくということである。
要するに、世界はインフレと戦争の時代に移り変わろうとしている。
この状況で人々はどうすれば良いのか? ダリオ氏は次のように述べている。
中国のことわざに「賢いウサギは3つの巣穴を持つ」というものがある。
その意味は、アメリカであれイギリスであれ、自国が酷い状況に陥ったとき、より良い国へと移ることができるかということだ。歴史を振り返れば、それはとても重要なことだ。
富裕層の間ではよく言われることだが、万一の場合に他の国に移れることは非常に重要である。例えば自分の国が戦争になったとして、そのままそこに居て戦争に巻き込まれるのか、あるいは東京から大阪に引っ越すくらいの気軽さで別の国に移ることができるのかである。
そのためには少なくとも移住先の国をよく知っている必要があるだろうし、そこに交友関係がなければ新たな生活を始めるのに苦労するだろう。そして何より、ビザか永住権を取る手段がなければならない。
この条件を満たすことのできる日本人がどれだけ居るだろうか。しかしダリオ氏の予想では、今後10年でそういう状況になる可能性が十分あるということになる。多くの人は、それでもまだ「先進国が戦争に巻き込まれることはないだろう」と漠然と思っているだろうが、同じように2021年まで、ヨーロッパで戦争が起きるとは(ダリオ氏以外)誰も思っていなかったのである。
資産の移動
また、ダリオ氏によれば、逃げなければならないのは人だけではない。資産もである。
人よりも資産の方が逃がすのが難しいという状況もしばしばある。戦争や財政危機という極限の状況になったとき、政府が逃がしたくないのはあなたよりもあなたの資産であるかもしれないからである。
だからダリオ氏は次のように言っている。
資産を移動させることができる能力は重要だ。
実際に、どのように資金を逃がせなくなるのか。ダリオ氏を含め、何人かの著名投資家は、国債が暴落したときに政府が自国の銀行に国債を買い支えさせるシナリオを指摘している。
それは歴史上実際に起こったことのあることだが、銀行が国債を買い支える資金は預金者の預金なので、最悪の場合預金者は預金が引き出せなくなる。
または、その国の通貨が暴落したとき、外国人がその国の通貨や国債を売却することを禁じ、外国人はその国から資金を引き出せなくなることもある。日本人にとっては、例えばアメリカへの投資から資金を引き出せるかということである。
ダリオ氏のように歴史を知っている人からすれば、どれも過去に実際に起こったことである。
結論
ということで、万一の場合に備えて自分と自分の資産を逃がせる準備をしておくことは、ダリオ氏の予想が妥当だと思う人には必要だろう。
だが何処に避難を求めればいいのか? それがなかなか難しい問題である。例えば、以下の記事でジム・ロジャーズ氏は、第2次世界大戦を避けようとして南の島へ逃げた人のとんでもない末路について語っているので、こちらも是非読んでもらいたい。
いずれにしても、戦争や財政危機のような状況が本当に起こるのか、起こるとすれば可能性はどのくらいなのかを理解する必要がある。
そしてそのためには、実際にそうなった歴史上の事例について知っておかなければならないのである。
ダリオ氏の著書『世界秩序の変化に対処するための原則』では、アメリカ以前の覇権国家、大英帝国やオランダ海上帝国がどのように衰退していったのか、その時に何が起きたのかについて詳しく説明しているので、そちらも参考にしてもらいたい。