日銀が追加緩和として株式ETF買い入れ増額を検討か

新型コロナウィルス肺炎で金融市場が急落していることで、日銀が量的緩和の一環として行なっているETFの買い入れ金額増額を検討しているらしい。Reutersが報じている。

中央銀行による株式買い入れ

そもそもの話から始めよう。元々中央銀行は政策金利を操作することが役割だった。それより以前には金利を一元的に操作できる組織などなかったのだが、何故政府がその権限を手にしてしまったのかという話は今回は脇に置く。

通常時は景気が悪ければ金利を下げて企業や消費者がお金を借りやすくなるようにし、景気が良ければ金利を上げてそれをもとに戻すということを行なってきた。しかしそれを続けているうちに金利を下げても政府の望むような経済成長が得られなくなってきた。それで中央銀行は紙幣を印刷して市場から証券を買い上げる量的緩和というものを発明したのである。

量的緩和で対象となる買い入れ資産とは主に国債である。日銀もECB(欧州中央銀行)もFed(連邦準備制度)も国債を買っている。

しかし日銀だけはそれで満足しなかった。株価を上げたかったので株式を買い始めたのである。その結果株価は確かに上がった。しかし結果として日銀には追加で出来ることがほとんどなくなってしまった。

米国は最近日本の真似をして株式を買おうとしている。

米国はまだゼロ金利ではないので利下げも行うことができる。しかし日銀は既にマイナス金利に陥っており、しかも既に株式を買っている。ここから出来ることはほとんどないのである。

それで日銀は金融業界では長年空気のような存在となっていた。ファンドマネージャーらもパウエル議長の空回りぶりにはため息をついているが、それでもFedのやることには毎回注意を払っている。しかし日銀の話は誰もしていない。その日銀が一発奮起しようということである。

日銀は株価を操作できるか

さて、では市場から既に見放されている日銀が追加緩和で株価を上げることができるだろうか? 読者はどう思うだろうか。筆者の答えはYesである。日銀はそれでも株価を操作することができる。

例えば、日銀が紙幣を印刷して上場企業の株式をすべて買い上げると宣言すれば、市場のそれまでの動向とは関係なく株価は上がるだろう。それは理論的には可能である。しかし実際にはそこまでの勢いで日銀が株式を買い上げることは考えがたい。

よってこれは日銀がどこまで共産主義的になれるかという問題である。実際、結構な額の株式が日銀に買い上げられ、株式市場の一部は事実上国有のようなものとなっている。結局、政府は市場での自由な売買に任せると言いながら実質的には資産価格をコントロールしたいのである。共産主義でも資本主義でも政治家の本質は変わらない。そして政府は主義主張にかかわらず自動的にその方向に進んでゆく。

それでも彼らはあからさまにそうすることを嫌う。あくまで少しずつということである。そこで日銀のやることは現在の購入額をいくらか上乗せするくらいだろう。

日銀の株式ETF購入

さて、では日銀に現実的に可能な買い入れ増額で株価を上げることは出来るだろうか? 答えはYesである。株式市場は買い圧力を掛ければその分だけ上がるだろう。

では買い入れ増額で現在の新型ウィルスによる下げ相場を止めることが出来るだろうか? 現在の日経平均は次のようになっている。

この問いに対する答えは増額の規模にもよるが恐らくNoだろう。そもそも日銀はここ何日かすでに1日あたりの買い入れ金額をおよそ700億円から1,000億円に増額している。恐らくはこの事実上の増額を19日の政策決定会合で正式な政策とするのだろう。メディアにリークしたのもそのためだと思われる。

しかしこうした市場の急落を株式の買い入れという直接的な方法で食い止めるにはかなりの額の買い入れが必要となる。東証の時価総額はおよそ600兆であり、これが10%下落すると60兆円が失われることとなる。日銀の1日の買い入れ金額がどれほど小さいものかということだろう。よって日銀のETF買い入れ増額の効果はアメリカの利下げとあまり変わらないものとなるだろう。

しかしこうした追加緩和は新型ウィルスが過ぎ去った後で効いてくる可能性がある。より厳密には流行のピークと同じ時期に株価は底を打ち、その後の上昇相場をこうした金融緩和が助ける可能性はある。しかし新型ウィルスの短期的な実体経済への影響と株式市場の短期的な値動きを操作することは難しいのではないか。

どちらにしても流行のピークはアメリカと日本の中央銀行が会合を開く日本時間3月19日よりも後になりそうなので、流行のピークよりも前に買いを入れない投資家は中央銀行が手を打ったのを見てから影響について考えることができる。株価のその後の値動きについては以下の記事を参照してほしい。

しかし日経平均のチャートをもう一度掲載するが、上がった分下がっただけである。

何故この状況が中央銀行の株式買い入れを正当化するのだろうか? 株式市場はいつから下がってはならないものになったのだろうか。投資家なら誰でも知っているが、市場とは経済に悪材料がある場合にはその分下がらなければならないものなのである。それを無理矢理上げると市場の歪みがどんどん増えてゆく。

日本の政治で面白いのは、自民党が株式の国有化を推進する一方で共産党がそれに反対していることである。資本主義とは一体何だろうか。