世界最大のヘッジファンドBridgewaterのレイ・ダリオ氏が、最近発売された新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で、ドルからの資金逃避が起きる可能性について語っている。
ドルからの資金逃避
これまでの記事では、ダリオ氏はアメリカの財政問題が解決せず、アメリカでもアベノミクスのように中央銀行が国債を買い支えなければならなくなるのではないかと予想していた。
その結果は当然ドル安であり、ドルは何よりゴールドに対して下がる(つまりドル建て金価格が上がる)ことになるだろう。
ゴールドはもう長らく上がっているが、前回の記事でダリオ氏は、将来的には投資家だけでなく、一般の人々もドルからゴールドに逃避することになると予想していた。
通貨安政策の結末
だが、アメリカでも中央銀行が紙幣印刷で国債を買い支えなければならなくなり、ドルから資金が流出すると、その結果起きることは単に人々がゴールドを買いに走るだけではないだろう。
アベノミクスがアメリカでも起きるということは、通貨安とそれに伴う輸入物価の高騰が起きるということである。
だからダリオ氏は次のように言っている。
人々はインフレに先回りするために商品を買いだめしようとする。そうした商品の一部は輸入品なので、それは自国通貨の売りを発生させる。
自国通貨の下落がインフレに更に火を付け、状況が更に悪化する。
日本では米の価格高騰が収まっていないが、輸入品であるトラクターの燃料や肥料などの高騰が原因の一部なので、やはりこれも通貨安の問題が絡んでいる。
そしてインフレが悪化し、金利が上がり、政府は国債の利払い増加に苦しんで紙幣印刷に頼るが、それが更に通貨安を悪化させ、インフレが悪化し、金利が上がってゆく。
この負のスパイラルこそが日本が足をほぼ両足踏み入れている通貨安政策の結果である。日本人は誰も気にしていないが、超長期国債の下落が止まらない。
日銀の植田総裁はそれを見て黒田前総裁が始めた量的緩和の縮小ペースを緩めた。植田日銀の金融政策正常化は、国債下落によってもう暗礁に乗り上げ始めている。
国外への資産逃避
だが日本もアメリカも同じことだ。金利上昇という点ではアメリカが先に行っており、国債からの資金流出という点では日本が先に行っていると言えるだろう。
だからダリオ氏が予想するような未来はそれほど遠い先の話ではないと筆者は考えている。
そこから先は、国民にとっては資産をめぐるサバイバルである。ダリオ氏は次のように述べている。
国内の預金者は外国株の方が安全ではないかと思い始める。それを補助するための金融商品がたくさん出現する。
これは、日本では未来の話ではなかった。もう既に始まっている。
ダリオ氏は更に次のように続ける。
資産家の個人は、資産が守れるかどうかや、増税や資産の没収を懸念し、お金を海外に移す。
中国では日常茶飯事だが、日本やアメリカでも遠からずそうなるかもしれない。幸いなのは、日本政府にはマイナンバーカードを作るくらいの頭脳しかないことである。資金の国外流出を阻む能力に関しては、日本政府は米国政府に遠く及ばない。
それは日本人にとっては良いことである。
また、ダリオ氏は海外口座についても次のように言及している。
国内の銀行に問題が生じ、海外の銀行口座を開設することが妥当な行動だと考えられ始める。お金を他の通貨に両替することが簡単になるからだ。(但し、政府が資本統制をしていない場合に限る。多くの場合、政府は国民が海外口座を開設することを阻止する。)
「国内の銀行に問題が生じ」というのは、下落する国債を銀行が政府に無理矢理買わされるところから問題が始まる。
それはアメリカではもう始まりつつある。スコット・ベッセント財務長官が、米国債の買い手として銀行を頼りにしていることをはっきりと言明しているからである。
結論
ダリオ氏のこれらの予想は、コロナ前までならば誰もが冗談としてしか取り合わないような話なのだが、その一部が既に実現しているというのは恐ろしい話である。
ともかく投資家は逃げる準備をしておくことである。ゴールドはもう長らく上がっているが、前回の記事にも書いたようにシルバーやプラチナまでついに上がってきた。ここではもう長らく貴金属を薦めておいたではないか。
非常に親切なことに、ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)には、これからどうなるかが事細かに書いてある。英語が読める人は読んでおくべきである。日本語版が出る頃には、多分もう遅いからである。