2015年、ソロスなどヘッジファンドは空売りを始めている

2015年に入り、株式市場はやや不安定な動きを続けているが、米国の景気回復と日欧の金融緩和により米国市場はいまだ市場最高値の水準にあり、また原油安も個人消費を促進することから、誰も米国の景気回復を疑っていない。しかし1月時点でS&P 500のP/E(株価収益率)は19台後半に達しており、個別株の観点からもかなり割高なものが多数を占めてきている。

何よりも注意すべきは、米国の量的緩和の終了と利上げという未曾有の金融引き締めがいまだ織り込まれていないことである。投資家は、量的緩和による低金利によって債券から株式への資金流入が起こったことを完全に忘れている。これは即ち、金利が上昇を始めれば資金が株式から債券へと流出することを意味している。米国におけるこの逆流は日欧の量的緩和によって時期が遅れる可能性があるが、いずれにせよ2015年と2016年がもっとも警戒すべき年なのである。

そこで、賢明なヘッジファンド・マネージャーの多くは、ロングポジション(買い持ち)に加えて、ヘッジのために割高な銘柄の空売りを始めている。彼らも米国の景気回復を疑っているわけではないため、全面的に弱気の投資家はいないが、流動性縮小の局面にどういうことが起こりうるかを知っている賢明な投資家は、このような場面で単純な買い持ちをしないのである。そこで本記事では、ジョージ・ソロス氏やデイヴィッド・アインホーン氏など、著名投資家が空売りしている銘柄をレビューする。

ハイテク株

アメリカ市場でとりわけ割高となっているセクターの1つがハイテク株である。リーマン・ブラザーズの空売りで成功したことなどで知られるグリーンライト・キャピタルのアインホーン氏は、ハイテク株のうち割高なものを徐々に空売りし始めている。2014年第1四半期の投資家向けレターでは、「われわれはハイテク株全般には強気である。(中略)しかしモメンタム銘柄のいくつかは、あらゆる常識的な指標から妥当と思える株価水準をとうに超えており、これはバブルであるとわれわれは判断している」と述べ、また第3四半期のレターでは、空売りリストのなかにAmazon.com (NASDAQ:AMZN、Google Finance)を追加したことを発表した。

バブル相場の典型的な特徴の1つは将来の収益が誇張されることにあり、そういう局面では現時点で利益を出しておらずとも将来の輝かしいストーリーのある銘柄が買われてゆく。しかし投資家がポジションを縮小するときに真っ先に売られる銘柄もそういう銘柄であり、ハイテク株はその典型なのである。下落局面では、どういう銘柄から売られるのかを考えることが非常に重要である。

バイオ株

ハイテク株と並んで将来性を買われるセクターがバイオ株である。とりわけ最近の米国ではドットコムバブルの時のような華やかな起業ストーリーが相次いでおり、公開株だけではなくベンチャーキャピタルやシードファンディングなどのレベルでのバイオ株への投資も盛んであるが、質の良い企業もある一方で、度を越した評価額の銘柄は昨今ではバイオ株のほうに多いように見受けられる。

SEC(証券取引委員会)の公開するForm 13Fにおいて、ジョージ・ソロス氏のソロス・ファンド・マネジメントの保有する株式及び個別株オプションのリストが四半期ごとに公開されている。空売りや先物取引は公開されていないが、少なくともプット・オプションの買いは見ることができ、2014年第3四半期のデータでは、ソロス氏はiShares Nasdaq Biotechnology ETFのプットを保有している。このように、ETFを利用して個別銘柄を指定せずにセクターごと売り買いすることは、グローバル・マクロ戦略の特徴である。

エネルギー株

米国の伝統的な石油会社は優良企業が多いとはいえ、このような原油価格の下落のもとでは高い収益を確保し続けることは難しい。原油価格の先行きは下記記事を参照。

ソロス氏はExxon Mobil (NYSE:XON、Google Finance)も当分は厳しい状況下に置かれると判断したらしく、Exxonのプット・オプションを少量であるが購入している。上記の記事で分析した通り、少なくとも半年はエネルギー株にとって厳しい状況が続くだろう。

新興国株

ソロス氏の保有するプット・オプションのなかで、新興国の小型株で構成されるiShares MSCI Emerging Markets ETFのプットは、S&P500のプットを除けば最大のポジションである。無論、純粋な空売りのポジションが公開されていないので、彼のショートポジション全体を推測することはできないが、彼が新興国市場の下げを警戒していることは確かだろう。米国の利上げが近いことによる新興国からの資金流出は、グローバルマクロの王道であり、彼はこの場面でもそれを踏襲したことになる。

見通し

日欧の金融緩和によって米国の長期金利は再び下落傾向にあり、株式から債券への資金流出は来年に持ち越される可能性もある。しかし、米国の経済が回復基調にあるから米国株が買いだという安直な判断で投資をするのは、ブラックマンデーのような暴落を知らない投資家だけである。1987年当時のP/Eはいまよりも低く、しかもGDP成長率はいまよりも高かったのだ。

バブルというものは天井知らずであるから、2015年のあいだに上記に挙げたセクターがこのまま上がり続ける可能性もある。しかしこういうものを取りに行かず、需給の観点から充分起こりうる急落に備えるということは、投資家にとってもっとも重要な判断の1つである。危ういシナリオに賭けるよりは、不確実性の少ないシナリオに大きく賭けるほうが、平均リターンは大きいものなのだ。