2月FOMC会合結果で金利低下・ドル円下落の理由

アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は米国時間2月1日に金融政策決定会合であるFOMC会合の結果を発表した。アメリカの政策金利は4.25%から0.25%利上げされて4.50%となった。

FOMC会合結果でドル円下落

事前に記事に書いておいた通り、0.25%の利上げ自体は市場の予想通りである。

だが金融市場では金利が低下し、ドル相場が下落した。会合後数時間のドル円のチャート(3分足)は以下のように推移している。(時刻がヨーロッパ時間だがご容赦願いたい。)

何故こうなったかと言えば、まず声明文が非常にハト派だったからである。

ハト派の声明文

今回の声明文はなかなかに饒舌である。これは長らく声明文ではほとんど何も語らず、市場とのコミュニケーションを主に記者会見に頼ってきたパウエル議長下のFedとしては珍しいことである。

まず前回の声明文のうち、「インフレは高止まりしている」という部分は今回「インフレはいくらか和らいだが高止まりしている」という文に差し替えられた。「インフレは根強く高金利継続が必要」と言い続けてきたFedとしては珍しく、インフレ率の下落を明示的に認めた形となっている。

また、ウクライナ情勢がインフレに上方圧力を加えていると主張していた、戦争とそれに関連する出来事が「インフレに上方圧力を加えており、世界経済の活動に重荷となっている」という部分が「世界的な不確実性の上昇に貢献している」という文に差し替えられた。

そもそも2022年2月以降アメリカのインフレ率は上がっていないどころかむしろ下がっているという事実を考えてもウクライナ情勢はインフレとはほぼ関係がないのだが、Fedはそれをインフレ圧力の1つとして数えることも止めたということで、これもハト派な声明変更だと言える。

更に重要な変更は、単語を1つ変えただけの次の箇所である。

次の利上げのペースを決めるにあたっては、これまでの金融引き締めの積み重ねと、金融政策が経済活動とインフレに影響を与えるまでのラグ、そして経済と金融市場の動向を考慮に入れる。

この文のうち、「次の利上げペースを決めるにあたっては」の部分が、「次の利上げの程度を決めるにあたっては」に変更された。

筆者はこれを、利上げがもはやペースの問題(利上げ継続は前提である)ではなく、程度の問題(程度がゼロになることもあり得る)になったという意味だと解釈した。Fedは元々利上げ停止を議論に上げてはいたが、今回は本格的に声明文に載せてきた。

今回の会合は完全にハト派

ということで、上記の3つの変更はどれもかなりハト派的なものだ。

会合後の記者会見におけるパウエル議長の発言は慎重なままではあった。インフレ率急落と金利低下を予想的中させたジェフリー・ガンドラック氏などは利上げがこの2月の会合が最後だと言っていたが、パウエル氏は記者会見で今後も数回の利上げを行う可能性が高いと主張した。

また、急落しているアメリカのインフレ率についてパウエル氏は次のように述べた。

金融市場の状況は12月の会合からそれほど変わっていない。インフレ率が今後どれほど早く下落するのかを見る必要がある。

われわれの予想はインフレ打倒には時間がかかり、金利は高く保ち続ける必要があるというものだが、今後の状況を見てみよう。

一見慎重な姿勢を繰り返してはいるが、「今後の状況を見てみよう」(原文:we’ll see)という言葉がパウエル氏の本音を物語っている。状況次第では意見を変えることが有り得るような含みに聞こえる。

また、今年中の利下げについてコメントした部分にも同じような「条件付き」の所感表明が見られる。パウエル氏は次のように述べている。

もし経済がおおむねわれわれの予想に沿って推移するならば、今年中の利下げは適切ではないだろう。

これは明らかに将来「インフレが予想より下がったので利下げする」と言えるようにするための伏線である。年内の利下げがないことに確信があるのならば「今年は利下げしない」と言えば良いのである。だが彼はそのコメントを条件付きにせずには居られなかった。その原因はインフレ率の推移である。

結論

ということで、会合後ドル相場はドル安で推移し、筆者も今回の会合はかなりハト派だと受け取った。筆者やジェフリー・ガンドラック氏、スコット・マイナード氏の3者の予想では、インフレは少なくとも今年の半ばまではかなりの速度で急降下し、Fedは遠からず利下げを迫られると見ている。

パウエル氏の今回の発言は明らかに、将来利下げに追い込まれた時に前言撤回する羽目に陥らないように予防線を張っているのである。パウエル氏はインフレの急落を心配し始めている。

ちなみに今後の政策金利の動向を織り込んで推移する2年物国債の金利は、ドルが下がったことからも分かるだろうが下落した。

筆者は去年末からドル安と2年物国債の金利低下に賭けており、すこぶる好調である。

パウエル議長は建前では今後も利上げを続けると言い続けているが、次回3月の会合でも利上げはあるのだろうか。そうなれば株価が危ういというガンドラック氏の予想もあり、楽しみに結果を待ちたい。