引き続き、The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏の、Resolution Foundationによるインタビューである。
今回は、世界各国が財政難に陥り、海外に投資している資金を自国に戻そうとすればどうなるかについて語っている部分を紹介したい。
世界各国の資金不足
どの国もお金がない。アメリカはコロナ後の金利上昇で米国債の利払いが財政赤字の半分に達するほどに増加している。
Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は、赤字を何とか補填しなければ米国債の下落に繋がると予想している。
ヨーロッパも同じように金利が上がり、国債の利払いが増えていることに加え、アメリカがウクライナから手を引こうとしているために、自分たちで国土を防衛するために国防費を計上しなければならない状況に置かれている。
どの国もお金がない。ネイピア氏によれば、それでフランスのマクロン大統領は次のように言っているようである。
マクロン大統領は、ヨーロッパ人が毎年3,000億ドルもアメリカに送っているのは馬鹿げていると言った。ヨーロッパがアメリカの財政を担っているのは馬鹿げていると。
マクロン氏はだからどうすると言ったわけではないが、とにかく彼はそれが馬鹿げていると言った。
マクロン氏が言っているのはフランスの国民や企業が米国債や米国株に投資している資金のことである。
自国にお金がないのだから、アメリカに投資をしている余裕があるならフランスに投資すべきだと彼は言っているのである。
そしてそれはどの国も同じらしい。ネイピア氏は次のように言っている。
これは本国への資金回帰だ。マクロン氏はそれを望んでいる。ドイツ人もそれを望んでいる。
各国が海外から資金を戻せばどうなるか
ヨーロッパは地政学的な理由で特に資金が必要となっていると言えるだろう。貿易ではアメリカのように中国からの輸入を減らして自国で生産を行おうとしており、これまで生産していなかったものを生産するためには投資が必要である。
アメリカに頼らず国防することについても当然ながら国防費が必要だろう。
ネイピア氏は次のように言っている。
中国からの離脱にしても、アメリカからの離脱にしても国防にしても資金が要る。
すべての根底にあるのは金利高である。これまで何の問題もなかったはずの政府債務にインフレで金利がついた時、政府は資金不足に陥る。
アメリカもヨーロッパも日本もお金がない。だが各国それぞれ他国に投資している分のお金はまだある。
では、各国がそうしたお金を自国への投資のために取り戻そうとしたとき、何が起きるか? それは各国が持つ国外資産から、外国人に保有されている自国の資産を差し引いた対外純資産(GDP比)を列挙すれば分かる。
- アメリカ: -90%
- ドイツ: +77%
- フランス: -25%
- 日本: +62%
それぞれの国に、自分が呼び戻す資金と他国から呼び戻される資金がある。対外純資産がマイナスというのは、他国から呼び戻される資金の方が多いということである。
ネイピア氏は特に、隣国同士であるドイツとフランスの対比に注目している。特に、ドイツはフランスにお金を貸しているからである。
ドイツは資金の本国回帰でお金が戻る一方で、フランスからはお金が出てゆくことになる。
また、ネイピア氏は日本の対外純資産が大きなプラスであることにも注目し、次のように言っている。
フランスに次に大きく投資をしているのは実は日本だ。
だが日本が日本国債を買い支えるために海外にある資金を呼び戻さなければならなくなるのは多くの人が認識するところだろう。
ネイピア氏は、日本もまた他国に投資している資金を日本に呼び戻さなければならないと予想している。何故か? もう数年間下げ止まっていない日本国債を買い支えなければならない局面がやってくるからである。
日本で海外資産を持っているのは個人や、個人のお金を預かっている銀行だが、個人や銀行が政府の都合で海外資産を売り、日本国債を買うのか? ネイピア氏が予想しているのは、日本に限らず各国政府が国民に国債の買い支えを間接的に強要する状況である。
そして対外純資産のマイナスが大きい国の資産が売られる。
アメリカとフランス売り
この状況は投資家にとってどのようなトレードに繋がるか。ネイピア氏がまず推奨するのは、やはりドイツとフランスの差に着目することである。
ネイピア氏は次のように言っている。
ドイツが海外にある資金を自国に呼び寄せるにつれて、フランスとドイツの国債金利の差は劇的に広がるだろう。
資金の本国回帰の結果、ドイツ国債が買われ、フランス国債が売られるからである。
また、ネイピア氏は別の記事で同じ理由により米国債が売られると予想している。
対外純資産のマイナスによるドル資産売りについては、ジェフリー・ガンドラック氏が米国株に関して同じことを予想している。
結論
さて、ここまでの話で読者は何か矛盾があるのを見つけなかっただろうか? それはマクロン氏の話である。ネイピア氏は次のように言っている。
マクロン大統領が資金の本国回帰を望むというのは興味深い。資金が本国回帰する世界で敗者になるのはフランスだからだ。
前にも言ったが、ネイピア氏の言う世界的な資金の流れの話は、長期トレンドである。しかし、ガンドラック氏も言っているように、その長期トレンドこそが例えば過去40年の米国株高などを実現してきたのである。
それが逆流するとき、過去40年の常識からは考えられないことが起きる。例えば国民に国債の買いを強制する資本統制などは、これまでの常識では有り得ないと思うだろうが、数年前までインフレさえも有り得ないものだったのである。
確かにデフレの時代にはそれは有り得ないものだった。しかしデフレの時代以前の歴史を振り返れば、インフレと金利上昇により政府が困窮する時期には、資本統制は普通のことなのである。
Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は、新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で過去の事例からそれが普通のことであることを説明している。
英語が読める人は原著で読むことをお薦めしたい。過去の事例を知っていると今を見る目が変わるからである。